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"We are Nature" 私たち自身も自然なんだ(SNL2016年12月発行)
30周年記念行事の一環として東京・大手町で行われた文化人類学者の竹村真一氏と、ジョセフ・コーネル氏の対談。
竹村氏のネイチャーゲームに対する思いを中心にご紹介します。
地球(ゾウ)の体温を気にするノミ
地球の語り部
【ナチュラリスト】
ジョセフ・コーネルさん

米国生まれ。野外活動インストラクターを経て、1979年に「Sharing Nature with Children」を発表。以後、ナチュラリストとして世界を舞台に活動。当協会名誉会長。
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「未来の地球」コンダクター
【文化人類学者】
竹村真一さん

京都造形芸術大学教授。Earth Literacy Program代表。地球時代の新たな「人間学」を提起し、世界初のデジタル地球儀『触れる地球』など、地球環境問題への取組みを行う。
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――ITの最先端技術も用いて地球環境問題に取り組む、京都造形芸術大学教授であり文化人類学者の竹村真一氏と、ネイチャーゲーム創始者であるナチュラリストのジョセフ・コーネル氏、ちょっと異質な感じがするこの対談。



発端は、竹村氏がその著書『宇宙樹』のなかで、ネイチャーゲームの代表的なアクティビティ〈わたしの木〉を取り上げてくださったことから始まりました。〈わたしの木〉の概念は、パートナー・ツリーであり、それがすばらしいのだと。



竹村:通常エコロジーで森を守ろうというときの森は抽象的なんですね...三人称の森です。でも、私にとって〝あの木〟というのは特別な存在ですから、その木が切られるっていうのは、ただ単に抽象的に森が切られるっていうのとは全然違う。二人称の関係ですから、自分の身が切られるのに近い、自分の子どもや友人が傷つけられるのと同じ感覚だと思うんです。ジョセフさんが提唱されているエコロジーの非常に重要なところは、ただ抽象的に「森を深く経験しましょう」という以上に、そういうパーソナルな関係を自然に対して持つということです。いわば「自分の一部として自然を経験する」ということでもあると思います。より深く植物を、森を、自然を知るというだけではなく、日本語で言うと「属人的な関係」を築くというのか。



コーネル:〝世界〟を変えようと思うとき、私たちはまずその〝世界〟にならないといけないと思います。木であれ、山であれ、個人的なつながりを持つことが大切だと思います。

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日本人はモジモジ人間

――ネイチャーゲームで提唱している五感を使う活動。しかし現代の日本人は五感を使うどころか、視覚だけの「一感人間」になっているという竹村氏。最近では「電話」という声の文化も捨てメールばかりで「モジモジ(文字文字)」している...と、通訳泣かせのギャグを一発。



竹村:声と耳を通過しないんですよね。全部、目から入って、目に還っていく。使っているのは目と手だけじゃないか...っていう話です。だからこそ、視覚を排除して、真っ暗な部屋でウサギに触ってみる、目隠しをして樹木に触ってみるとか、いろいろなモノの匂いを嗅いでみるとか...。そういう経験が非常に重要で。そこを拡張していこうというのがネイチャーゲームの本質なんだろうと思います。



コーネル:さまざまな感覚を使って木に接すると、木の理解が概念的ではなくなります。樹種やその生息環境に対する知識だけでなく、全身を使った木の理解になっていきます。



竹村:人間の本質は、かなり森のなかで培われてきたわけです。肉食獣から身を守るため、人間は、祖先である初期霊長類の段階から長い間樹上で暮らしてきました。そのなかで前脚がものをつかむ手に進化。かわりに後ろ脚だけで体を支える二足歩行の準備を整え、飛び移る枝までの距離も正確に測れる「立体視」の眼を得た。そして、今でも森にあふれている超可聴域の100kHz前後の音を聴くと、耳には聴こえないのに脳波は確実に変わるそうです。私たちが思っている以上に、いろんな次元で人間は森を深く経験している。森とのつながりを断ってはいけない...といのは、じつは人間の本質に根ざしている話で、都市環境のデザインもこうした視点でなされるべきです。

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私たち自身が自然なんだ
竹村:江戸時代の哲学者、三浦梅園(みうら ばいえん)が、弟子に語った非常にシンボリックな言葉があります。「枯れ木に花咲くより、生木に花咲くのを驚け」と。枯れた木に花が咲くと人は驚くけれど、生きている木に花が咲くことの方がもっと驚くべきことだ...と。これこそが、ジョセフさんがずーっと話されていることだと思うんです。



木だけじゃありません。じつは僕らの体では、細胞が1日に2千億から3千億、新しく生まれては死んでいます。ですから、「お変わりありませんか?」と挨拶されても、変わりまくっているわけです(笑)...それでも、同じ〝私〟でいる、これがまたすごいことです。いってみれば、僕らは毎日、新品になっているわけです。まさしく、我われ自身がすごい自然なんですよね。都会ではなかなか自然に触れられないといいますけど、自分自身がとんでもない自然なんだ!という感覚を持っていると、鉢植えの木もいきいきと見えてくる。森に行くことも大事なんだけど、自分自身にもう一回驚き直す...ここから、自然にもっと気づくようになる。その両方が大切だと思うんです。



コーネル:We are Nature !(私たち自身も自然である)まさにそうです。そういう新鮮な感覚を日々取り戻す...身近な自然にインスピレーションを持ち続けられるようにと願って、新刊『空と大地が私に触れた』では、いろいろなエクササイズを紹介しています。

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ゾウの背中のノミがゾウの体調を気にする
竹村:私たちは地球に比べると、サイズでは一千万分の一の小さな存在です。巨象の背中に乗っているノミのような。でも、そんなノミが自分が乗っている大きなゾウの体温や体調を感知して、〝地球温暖化〟とか〝気候変動〟とか名づけて気遣っている...これはすごいことですよね。人工衛星からの地球観測技術や、地球大の感覚神経系としてのインターネットを駆使して、リアルタイムに地球の体調の変化を「診療」している...これはすごいことです。



――この「ノミの体験」ができるのが、じつは竹村氏が企画・開発した、ほぼリアルタイムで〝地球の体調を見える化〟した『触れる地球』。対談を前にコーネル氏も体験し、二人は意気投合。ちょっと異質な二人の〝同源〟が実証されたような時間を過ごしました。



竹村:「人間は考える葦である」というのは哲学者パスカルの有名なセリフですが、じつはその続きが重要です。「人間に比べてこの宇宙は巨大で、人間をひねり潰すくらい簡単である。それでも人間は宇宙よりも偉大だ。なぜなら、宇宙に比べて自分はどんなに小さい存在であるかということを自分で知っているから」。つまり、人間の偉大さは、この自己認識力にこそある。だから、僕は希望をまったく捨てていません。人間は未熟で幼稚だから、今はずいぶん地球に迷惑をかけていますけど、地球の体調の変化をノミの分際で感じているというのは、なかなかすごいことで。パスカルの「人間は考える葦である」という、その可能性をやっとこれから発揮する。人類が幼年期を経て大人になる...今、そういうとば口に立っているのかな、と思います。それを感じられる場として、『触れる地球ミュージアム』を開設しています。

日本の生物多様性は人工自然なんです

――コーネル氏がよく語る話に、「自分の絵」を自然の一部として小さく描くアメリカ先住民族の子どもの話があります。これらを受けて竹村氏は...。



竹村:日本語の〝自分〟は「自然のなかの〝分〟」という感覚です。先住民の子どもが描いた絵と同じような感覚を、日本人は当たり前に持っている。そして単なる自然の一部というだけでなく、人間は自然をよくするパーツ(分)として貢献できるという感覚がある。それを表現しているのが工芸、工業の「工」。この字は上の棒が天で、下の棒が地、その間をつなぐ人の営み...という意味。つまり人の営みは、やり方が幼稚だと自然を破壊しますが、やりようによっては天地をつなぐコーディネーターにもなれるという発想です。



――「人工自然は決して悪い意味ではないのでは?」という竹村氏。火山性の急峻な地形のために、本来は山に降った雨があっというまに海に流れてしまい、洪水と渇水を繰り返していた日本。それを〝水の豊かな国〟にしたのは〝人の営み〟だといいます。川をつけかえ、保水力のある水田をつくり...。そうしてできたゆっくり水が流れる環境のなかで、多くの魚や昆虫が卵をふ化でき、日本は生物多様性豊かな国になったのだと。日本人は「地球を、自然をコーディネートして、高次の生物多様性をつくってきた」というのです。



竹村:日本で千数百年続いてきた田んぼや里山は、生物多様性の宝庫でしょ。だから、人間は地球のガンだなんていう発想は日本からは出てこない。もちろん、戦後の農業は農薬と人工肥料で相当土を悪くしてきましたが、今また本来の田んぼづくりに戻ろうという若い農業者も増えている。今は、こういう発想を地球規模に広げて行く時代だろうと思うんです。そのためには、木を抱きしめる生身の感覚と、地球を自分の体のように体感する疑似体験、両方が必要で。そんなエキサイティングな実験が今はじまろうとしていると感じます。



――We are Challenger !...そんなお二人の意気込みを感じた、ワクワクがとまらない2時間でした。



SNL15image07.pngまったく異なるフィールドで活躍されるおふたり。でも思いは同じ。


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.15 特集(デザイン:花平和子 編集:伊東久枝、佐々木香織、水信亜衣)をウェブ用に再構成しました。
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