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ライフスタイル
特集 Nature Game No.025〈動物交差点〉「動物の目をまっすぐ見れる自分でありたい」(SNL2018年12月発行)
全世界137万種、日本6万種────ともいわれる地球上の動物たち。
地球全域に進出を果たした「ヒト」として、ともに暮らす彼らのどれだけを、彼らの何を、いったい知っているのだろう...。
個性豊かな〝地球の仲間たち〟をより深く知るためのヒントを探して動物の〝行動展示〟で注目を集める旭山動物園の、坂東元園長を訪ねてみました。
・・・らしくを極める

旭山動物園園長
坂東 元(ばんどう・はじめ)さん

北海道旭川市生まれ。酪農学園大学獣医学科修士課程修了後、旭川市旭山動物園に獣医師として勤務。飼育展示係長、副園長を経て2009年より現職。著書に『夢の動物園〜旭山動物園の明日』(角川学芸出版)などがある。
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北海道・旭川空港からバスで約30分。バスを降りるとぷ〜んと、なんともいえない獣臭が...。「あ〜動物園だ」とワクワク感が湧き上がります。ただしそこは「ここが全国から連日観光客が訪れる動物園?」と一瞬とまどうほど、周辺にも園内にも晴れやかな演出はなく、素朴な日常の空気が流れていました。



入園者を増やそうと思って展示を考えたんじゃなくて。単純に、アザラシらしく、シロクマらしく暮らせるにはどうしたらいいか、それを来園者に見てもらって『すごい!』とか『綺麗!』と思ってもらいたいって、考えているんです

そういう坂東元園長が獣医として、当時「財政難で閉園まぢか」といわれた旭山動物園に就職をしたのは、30数年前。動物たちは従来型の単調な施設で展示され、樹上で眠る習性のため高い場所でじっとしているヒョウに、「動いているところがみたい」とお客さんが石を投げることも。ならば、高いところにいても間近で見られれば眠っていても文句はないだろうと、猛獣館を設計。今、ヒョウ舎の上部を巡る通路を通ると、手の届きそうな位置でヒョウの息遣いを感じ、波打つ胸に「生きてるなー」と体温にさえ触れられたように思えます。



Nature Game №025〈動物交差点〉 ネイチャーゲーム〈動物交差点〉は、自分の背中につけられたカードの「生きものの名前」を、他の参加者に質問しながら当てていくアクティビティです。「足の数は何本ですか?」「どこに住んでいますか?」などの質問をしながら...多くの動物のなかから1種類に絞り込みます。相手を次つぎと変えながらヒントを集める様は、まるで生きものたちの「交差点」。楽しみながら生物の特徴を学び、生きものへの興味をかき立てます

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つまらない動物なんていない

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絶滅危惧種が取りざたされ、今でも動物園では〝珍しい〟動物が人気を呼ぶ傾向があります。ましてや、旭山動物園が行動展示を試みた数十年前、多くの動物園で飼育されているライオンやアザラシは、来園者に「なんだライオンか、つまんない」と言われていました。



なんだタヌキか、スズメか...といいますけど、タヌキの何を知っているのかといったら、何も知らないんです。保護されたタヌキの赤ちゃんに犬用のミルクを飲ませたらみんな死んでしまう。入園当時の僕にはなぜだかまったくわからなかった。スズメのヒナは卵から孵ると2週間で巣立ちまで成長しますが、なぜそんなに急ぐのかわからない。ヒナが保護されてくると日中は2〜3時間おきに餌を与えるんですけど、忙しくて4〜5時間あくと死んでしまうんですよ

毛深いタヌキには体毛の生育に亜鉛が必要なため、犬用ミルクでは亜鉛欠乏症になるとわかるまでに何年もかかったそうです。スズメの親はヒナが巣立つまでに、ヒナの数にもよりますが、なんと2000回以上も餌を運ぶのだそう。財政難の時代、旭山動物園では飼育動物の6割が近隣から待ち込まれた「保護動物」でした。



獣医として働いて数年たてば、動物園で飼育しているライオンのことなどはある程度わかってきます。でも、家の前に落ちてました、木を切ったら出てきました...と近隣の人から持ち込まれる動物や鳥の名前がわからない、動物の名前はわかっても餌がわからない。やっと調べてわかっても、肝心の〝どうやったら食べてくれるのか〟がわからない。餌をただ置いても食べない。それがうまく餌を置くと、まるでふっと湧いて出てきたものを口にするように食べる。個人的な興味でいうと、そういうことがおもしろくて、ぼくにとって保護動物は宝の山でした

最近はバーチャルなゲームなどで簡単に知識が入り、動物でもすぐに「カブトムシはこういう生物」とわかった気になってしまうという坂東園長。



でも、実際に手にとって『カブトムシらしく一生を送らせてあげてごらん』というと、それはそう簡単ではない

と、いうのです。

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社会性のある種は社会性を持って生活させたい
動物園といえども、オオカミなど社会性のある動物は、生易しくは生きていないので闘争も起きます。それで死ぬこともある。僕たちはある一定の介入はしますが、それ以上はやむなしと考えています。テナガザルもオランウータンも、高い場所から絶対落ちないという保証はありません。それでも、彼ら本来のたくましさみたいなものを伝えたいんです

動物園の動物たちは囲われた空間のなかで一生を過ごします。「人間以外の動物は〝環境をつくり替える〟という感覚を持たない」という坂東園長。その環境で生き、生きられなくなれば誰かのせいにするのではなく、誰かを道連れにするのでもなく、〝潔く〟消えていく。それは野生の世界でも同じだと...。



動物園に自然界の食物連鎖はありませんが、それでも彼らが本来持っている感性や感覚、能力を少しでも発揮できる環境づくりを考えたいんです

そして物言わぬ〝潔い〟彼らの代弁者として、本来の彼らが住む自然環境のことを、現状のことを、動物園を通して伝えていきたいと話します。妥協をせず、つねに人として「まっすぐ彼らの目を見られる自分でいれるように」。

本来「自然」は全体であり個ではない
今、人間社会の〝生命感〟がどんどん極端に〝福祉〟や〝個の権利〟に特化してきているように思います。本来〝自然〟は全体であって〝個〟ではない。だから、〝福祉〟という概念で自然の生きものを見ることはできないんです

走行能力でみれば、ライオンは元気なシマウマは捕らえられない。捕まえらえられるのは、歳をとったものか、子どもか、病気のもの。まさに、野生の世界では、人間が〝福祉〟として守ろうとしているものから食べられていくわけです。



介護・福祉の概念とは180度違う生命感がある。というより、人間だけが〝他の動物とは異なる生命観〟で生きているということを知るべきです

動物は本来、〝ひとつの命〟として切り抜かれて在るのではなく〝環境の一部〟として存在している、といいます。それは、人間も例外ではありません。



野生生物との関係で〝近づくな、見るな〟とか言いますが、そんなばかな話はない

というのが坂東園長の持論。



山には何十種類もの哺乳類や鳥、虫ならもっといます。いちいち自分と違う種類の動物に会うたびにドキドキしているわけがない。木に止まっているフクロウが、エゾシカが下を通ったからと、毎回飛んで逃げはしない。つまり、フクロウはエゾシカを『下を通る分には害はない』と認識しているわけです。だから、人間がエゾシカみたいな存在としてウロチョロしたって彼らの生活に干渉することにはならない。人が無茶をしなければいいだけです。そこにはスズメがいるよ、エゾフクロウがいるよって聞いたときに〝どう振る舞えばいいのか〟僕たちが知っていれば、動物と人間の垣根をつくる必要はなくなるはずなんです



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ゾウがいなくなる未来なら子どもたちの未来も破綻する

旭山動物園では現在、園内に寄付型の飲料水自動販売機を設置し、「熱帯雨林の保全活動」を行っています。具体的には絶滅が危惧されるボルネオゾウ救護センターの運営です。



熱帯雨林は、食用や洗剤の原料にするパームヤシ農園の拡大により急速に失われています。でも、人間はもう油がないと生きていけないのも事実で。じゃあ、どこで折り合いをつけて一緒に生きていくか...ということだと思うんです

ボルネオゾウが絶滅すれば、オオカミのいなくなった日本の森のように、そこにはもう健全な熱帯雨林はなくなる。そしてその歪ひ ずみは、いつか地球全体に及び「ゾウがいなくなる未来なら、人類も根源的なところで破綻するのだと思う」と。



ただし、絶滅危惧種は多くの場合、生態系の頂点にいる動物です。ならば「底辺をしっかり守れれば、特別守らなくていい」ともいいます。底辺とは身近にいる〝普通の〟動物たち。要は、そこを大切にできるか...なのだと。



「野生動物の環境は、もう動物好きだけで守れる時代ではない」という坂東園長。動物や自然環境とまったく異なる分野で働く〝普通の人たち〟が、「これ以上はやめようよ」と思うラインが何か引ければ、未来は変わるかもしれない...。



それには、心が動かされるような〝原体験〟が必要だといいます。



知識で変われるのであれば、もう変わっていなければならないはずなんです。いまの子どもたちは、地球温暖化問題や海洋汚染など、じつに多くの知識を持っています。でも土は〝汚い〟という子がいます。『土が汚いと思う人がどうやって環境を守れるのか』と思いますね

自然のなかで心に残る「原体験」をつくる...それはまさにシェアリングネイチャーが目指しているものです。では、より効果的にネイチャーゲームを行うにはどのような方法があるのでしょうか。



前後のフォロー次第でゲームの価値が変わると思います。〈動物交差点〉を自然のなかで行って『お前はこの木にいるんだよ』と実物を示してヒントを出せば、今まで何気なく見ていた景色が〝自分ごと〟となって見えてくるかもしれません。『この木の樹液を吸って卵産んだんじゃないの、お前』なんてなったら面白いですよね

そうすれば、その子にとってその木はもうかけがえのない木になるはずです。



現在、旭山動物園ではマレーシア・ボルネオ島での高校生キャンプをはじめ、園内での自然体験会、厳冬期野外キャンプや有機農法米作り体験など、子どもたちの「原体験」をつくる多様な試みを行っています。



100年後につながる〝未来を変えるきっかけ〟を動物園が少しでも具体化できればいいと思っています

という坂東園長の言葉を聞いて、ネイチャーゲームでももっともっとできることがあるような気がしてきました。



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虫に悲鳴をあげていた子どもたちが、自然のなかで目を輝かせ”野生児”に変わる。ボルネオ島での高校生キャンプより


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.23 特集(デザイン:花平和子 編集:伊東久枝、佐々木香織、山田久美子)をウェブ用に再構成しました。
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