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ライフスタイル
公園の自然を守る×ネイチャーゲーム
公園主催の行事でネイチャーゲームが行われたことがキッカケとなって、希少種であるキンランの花を保護する活動を始めました。
どのように活動を行なったのか? その結果どうなったのか? 活動が長続きした要因は? 今後に向けてどうしたいのか? などについて、約20年間にわたる活動をたどりながら案内していきたいと思います。
公園でネイチャーゲーム行事が始まる

東京都稲城市の中央公園から依頼を受けて、ネイチャーゲームを中心とした行事が2001年から2006年の5年間にわたり行われました。行事後半のプログラムには、繁茂するヒサカキを伐採する手伝いも行いました。



稲城中央公園は、1991年、稲城市の基幹公園として開園しました。多摩ニュータウン地区の丘陵地を開発して作られた総合公園です。平地には、体育館、グラウンド、ランニングロードなどの体育施設が整備されています。斜面地には、雑木林があって里山の景観を残した管理が行われています。現在、(公財)グリーンウェルネス財団が稲城市の指定管理者になって、体育施設と公園管理を行っています。

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2005年、ネイチャーゲームをしている斜面地の雑木林に、突然キンランの花が咲き始めました。2003年頃から、常緑樹のヒサカキなどを間伐したり、下草刈りが行われ、地面に木漏れ日が差し込むようになったため再生したものと考えられます。



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キンランは、周りのコナラやクヌギの根とキンランの根との間に固有の菌根ができて、その菌から栄養を得ているとのことです。コナラなどの根、キンランの株、そして菌根菌の三者が共生しているので、キンランを採取して自分の庭や鉢に移植しても枯れてしまうと言われています。



1960年代に、多摩ニュータウンの住宅開発事業が始まり、多摩丘陵の宅地化や採取などからキンランなどの希少植物は減少していきました。現在、キンランやギンランは、環境庁レッドリストに絶滅危惧種Ⅱ類に登録されています。

キンランの保護活動を開始

しかし、キンランが再生して花が咲き始めた直後から、キンランが採取されるようになりました。このまま放っておけば、この公園からキンランが絶滅してしまうと思い保護活動を始めました。



最初は一人で始めました。2005年、確認された約30株のキンランと3株のギンランの株の根元に保護を表示したタグを取り付けたり、3本の竹で囲いました。



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2006年には、公園の行事に参加してくれた家族にキンラン保護を呼びかけ、2家族5名(大人3名、小学生2名)が参加してくれました。



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保護活動を開始して3年目の2008年3月、公園(管理者)の協力で、キンランを観察する一本目の遊歩道ができました。後に、別な場所に二本目の遊歩道ができました。



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2009年から、公園主催によるキンラン観察会が毎年開催されるようになりました。公園から依頼を受けた服部が参加者の案内人となって、キンランなどの希少植物を観察しながら保護をしている現場を案内しました。



こうした保護活動の最中、2012年6月にはエビネが根こそぎ盗掘されて、くやしい思いをするこもありましたが、観察会には、五感を使って自然の探しものをする〈フィールドビンゴ〉などのネイチャーゲームを取り入れて、公園の自然と楽しく触れ合いながら、希少植物を保護することの大切さを伝えました。



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観察会に参加した市民から次のような感想(一部)がありました。



地道な活動が生命を守ることになっているんですね。長きにわたっての活動に頭がさがります。エビネ、とても残念です。もう少し人の目につかない所ってないのですかね。稲城の宝が末永く守っていけますように・・・。市民の意識の持ち方もとても大切だと感じました。



昨年もこの観察会に参加させていただきましたが、今年もキンラン、ギンランに逢えてとても嬉しかったです。山野草を愛することはまた、人間を愛することです。このことを忘れないでいたいです。来年もよろしくお願いいたします。
10年間の保護活動で500株にまで増えたキンラン

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調査によって、保護活動を始めた2005年に確認された約30株のキンランは、10年後の2015年には、約500株に増えました。



キンランやギンランの他にも、シュンランやエビネ(2012に根こそぎ盗掘された)などの希少植物も確認できました。調査は、ブロックに分けて全数カウントしました。



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絶滅の危機は薄らいだので、2016年以降は調査を中断しています。

保護活動が長く続けられた理由と今後に向けて

ネイチャーゲーム指導員として、稲城中央公園に関わらせていただくようになって約20年たちました。そして、キンランの保護活動にかかわって15年たちました。(2020年2月現在)



なぜ活動が続けられたのでしょうか? 



その主な理由は3つあります。



①中央公園(管理者)の一貫した理解と協力がありました。この公園は、当初稲城市が管理していましたが、後に公益財団法人いなぎグリーンウェルネス財団(指定管理者)が管理するようになりました。財団の事業目的に、「心の癒しと身体の健康増進を目指すこと」とあるので、シェアリングネイチャー活動が目指すものと重なります。



②私たちが住んでいる地域から、キンランなどの希少植物を絶滅させたくたくないという強い思いがありました。希少植物が自生しているということは、自然が豊かな証だと思います。地域の宝として次の世代に引き継いでいく必要があると思いました。




③キンランが自生できることは、「人が自然を尊重して共生している社会」の一つの姿と思えるようになりました。



これまでシェアリングネイチャーの理念に支えられてやり続けることできました。



※シェアリングネイチャーとは

1979年に米国のナチュラリスト、ジョセフ・コーネル氏の著書『Sharing Nature with Children』において発表されました。「直接的な自然体験を通して自分を自然の一部ととらえ、生きることのよろこびと自然から得た感動を共有することによって、自らの行動を内側から変化させ、心豊かな生活を送る」という生き方を目指しており、ネイチャーゲームはこの考え方に基づいています。



今後も、キンラン観察会などを通して希少植物を保護することの大切さを人々に伝えると同時に、シェアリングネイチャー活動を取り入れて、自然と楽しく触れ合いながら「心も身体もウェルネス」のお手伝いをしていければと思います。



hattori08.JPG木の近くで深呼吸し、木と自分が呼吸で繋がっていることを感じる〈森林浴のエクササイズ〉

というネイチャーゲームを観察会で楽しむ様子

●ネイチャーゲームについて詳しく知る→ネイチャーゲームとは



hattori01.jpg服部 道夫(はっとり みちお)

1942年生まれ、東京都稲城市在住。ネイチャーゲームグラントレーナー。

シェアリングネイチャー(=ネイチャーゲーム)には、多様な可能性があると思っています。少人数のグループが研究テーマを持って、体験と対話を通して学びを深めていきながら自分本来の心豊かな生き方ができるプロセスづくりに取り組んでいます。

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