TOP

ライフスタイル
特集:NatureGame No.168 なぜだろう なぜかしら(SNL2020年12月発行)
「なぜだろうと考えることは僕らの活動の根源」。2019年4月、史上初ブラックホールの撮影に成功した国際プロジェクトの日本責任者・本間希樹さんは言います。宇宙を知ることで見えてくるものとは? 宇宙の謎は、私たちが存在することとも無関係ではないようです。
〈なぜだろう?〉は、 僕らの活動の根源
国立天文台教授 
本間希樹(ほんま まれき)さん

アメリカ合衆国テキサス州生まれ、神奈川県育ち。東京大学理学部天文学科卒、同大学院博士課程修了。現在、国立天文台教授、水沢VLBI観測所所長を兼務。主に銀河系構造やブラックホールの研究を行う。著書に『巨大ブラックホールの謎』(講談社ブルーバックス)、『国立天文台教授が教える ブラックホールってすごいやつ』(扶桑社)など。NHKラジオ『子ども科学電話相談』の回答者も務める。
SNL31image03.png



あまりにも私とかけ離れた遠い世界で、すべての物を吸い込み無にしてしまう怖い存在。それが私にとっての宇宙でありブラックホールでした。



宇宙の成り立ちをひもといていくと、僕らはそのなかで誕生している。人が生まれること、地球上に存在するすべてにかかわってくるので、無関係ではいられないんです。もしかして人類はブラックホールに感謝しないといけないかも

と話す国立天文台教授・本間希樹さんの言葉に、軽いしびれが走るような衝撃が。暗黒の天体・ブラックホールに感謝!? 2019年4月、史上初のブラックホールの撮影に成功した国際プロジェクトの日本側責任者を務めた方です。

宇宙の始まりは今から138億年前。ひとつの小さなタネのようなものでした。そのタネが爆発=ビッグバンを起こし、膨張することで現在の宇宙になったとされています。



天文学者は、日々なぜそこに天体があるのか、地球の上で生命が誕生したり、ブラックホールが存在するのか。それをなぜだろうと考えることは僕らの活動の根源です

と本間さん。



今号の特集、ネイチャーゲーム〈なぜだろう なぜかしら〉は、自然を観察して「なぜだろう」と思うものを見つけ、自分なりの理由を考えます。そのあと、参加者同士、なぜだろうと思ったことと、自分が考えた理由を発表しあうというもの。たとえば、水に石を投げると波紋が広がるのはなぜ? 樹皮がこんな模様になるのはなぜ? など興味をもったことどんなことでもOK。科学的な答えを導き出すことを主体とせず、ユーモアを交えたり、想像力を働かせる楽しみを味わいます。自然の中で、なんで?どうして?と考えをめぐらせることで、自然界の「もの」や「こと」と自身のかかわりが生まれていく。同じ疑問に対して他の参加者の違う仮説を知ることで、自分の世界を広げていけるのも魅力です。



ネイチャーゲーム〈なぜだろう なぜかしら〉のように、自然界に素朴な疑問をもつ体験は、科学的な心、考え方の入り口になるのではないでしょうか

と話す本間さん。科学の世界でも、いろいろな人が意見を言い、さまざまなシナリオを立て、検証することは重要なプロセスのひとつだと言います。



常識的にはおかしいと思える意見が出たとしても、その意見を大事にし、リスペクトすることも大切です。その点もこのネイチャーゲームと重なります。科学の世界でも大発見というのは、最初は大間違いだと思われることが多い。今までの定説がくつがえって、新しい説が生まれていく。科学はその繰り返しです
「ブラックホールを見たい!」 宇宙の謎、その姿を目にするまで

ブラックホールの研究を続ける本間さんですが、天文学の道に進もうと決めたのは大学3年に上がるとき。学科を選ぶさい、エンジニア系の工学系か研究を極める理学系のうち「謎を明らかにしたい」「物事の真理を追究したい」という思いが強く理学部へ。そのなかで宇宙っておもしろそうだなと天文学科に進みました。



大学では天の川を研究。宇宙に存在する謎の物質で、いまだその存在が明らかにされていない「ダークマター(※1)」にも興味を持っていたそうです。



研究一筋、「なぜだろう」を原動力に、子どもの頃からまっすぐに進んできたように見える本間さんですが、ご本人いわく「ごく普通の子どもでした」。スポーツも好きで、小学校、中学、高校とサッカーを続けていたそうです。



ただ、星を見るのは好きで、小学校3年ごろに天体望遠鏡がほしいと言って、親に買ってもらいました。なにかに興味をもったときに親が否定せず、受け止めてくれた環境はありました

大学院博士課程修了後、国立天文台に就職。その後、複数の電波望遠鏡の観測データを合成してひとつの観測データとして扱う手法、VLBI(※2)という技術に出合います。



VLBIは、一つひとつの星の距離を電波望遠鏡を使って丹念に測っていく技術ですが、だれもやったことがないから答えがない。1999年から始め精査を重ねて、2007年に最初の成果が出ました。その時点で初めて、星の距離を測る技術では、世界最高レベルに達したという自負を持ちました。2008年に、そのタイミングでブラックホールが見えるかもしれないというニュースがアメリカの研究グループから入ってきたんです

ブラックホールを実際に見られるとしたら、天文学的には事件。それが唯一できるのがVLBI、電波望遠鏡を使った技法。この技術にかかわった研究の当人である自分が、かかわらないというのはありえない。そう思った本間さんをはじめとした有志が、アメリカに提案し国際チームをつくりました。



観測するための電波望遠鏡建設に8年。データ検証に2年。プロジェクトスタートから10年かかって、ブラックホールの姿を目にすることができた瞬間、本間さんが取材記者の質問に答えるときのわくわくした表情がとても印象的でした。



宇宙っておもしろいなあっていう、そのわくわく感がないと、研究をやり遂げられないと思うんです。でも、その感覚は偉そうなものでは全然なくて、子どもがなにかに熱中しているときのわくわくと同じですよ

NHKの『子ども科学電話相談』で回答者を務めている本間さんは、じつは子どもに教えているのではなく、自分が子どもから教わっていると言います。



視点も全然僕らと違うし、何かに熱中して火がついちゃっている子は、僕の小学校時代とはくらべものにならないぐらい天文博士や恐竜博士だったりします。そういう子どもたちを見ると、あー、僕も負けていられないなって思います



注1 ダークマター:現代物理学では、人類はじめ地球をつくっている原子などの物質全部を集めても宇宙全体の5%にしかならないと考えられている。宇宙の27%は、光も熱も出さす観測不能なダークマター(暗黒物質)で、68%は物質ですらないダークエネルギー(暗黒エネルギー)とされる。



注2:VLBI 複数の電波望遠鏡の観測データを合成して一つの観測データとして扱う手法。日本国内の4カ所(岩手県奥州市、鹿児島県薩摩川内市、東京都小笠原村、沖縄県石垣市)に設置した口径20メートルの電波望遠鏡を合成することで、直径2300キロメートルの観測網を構築している。

自分ってなんなの?の答え =宇宙人はいる

本間さんはブラックホールについて、「こんな天体が存在していること自体がおかしい」と熱を込めて語ります。



宇宙にも法則があって、だからこそある式で書くことができて、ブラックホールなんていうへんてこな天体の存在を予測して、それが確かに存在している。このこと自体が本当に不思議ですね

光さえも吸い込むとんでもなく強い重力を持つのがブラックホール。ブラックホールは銀河の成り立ちに大きくかかわっていて、最初に大きなブラックホールができて、いろいろなものを集め銀河ができたのではと考えられているそうです。



もしかしたら、私たちが住む銀河系があるのも、ブラックホールがあるからじゃないかと言うことができる。その流れでいくと、ブラックホールがあったから銀河ができて、銀河ができたから太陽と太陽系ができて、その結果地球ができて、人類が誕生して…、とつながってきます。ですから、ブラックホールに感謝しないといけないかもしれないんです。これは、まだ仮説の段階ですけどね

今、本間さんはじめ天文学者が真剣に取り組んでいるのは、宇宙人を探すこと。



宇宙人が住めるかもしれない惑星が宇宙にどれぐらいあるか、天文学者が研究を重ねた結果、地球に似た惑星が少ないことがわかりつつあるそうです。



地球という星がいかに貴重な環境で、特別な場所かがわかってきています。何千個何万個という星に宇宙人がいないことがわかったら、それは人類にとって非常に大きな意味をもつでしょう。地球の上で戦争なんてしている場合じゃない、とさまざまな意味でマインドを変えざるを得ません

さらに、SDGsの観点からも大きな意味があると本間さんは言います。



100年しか繁栄しない宇宙人なのか、1億年繁栄する宇宙人なのかで、出会える確率がケタで変わってきます。もし、宇宙人に会えたとしたら、それは宇宙のどこかに持続可能な文明があることを意味します。彼らができるなら、僕らにもできるはずだというヒントになります

本間さんの専門である電波望遠鏡を使った宇宙研究の究極のゴールは、宇宙人が発している電波があるかないかを検証すること。



何十年後かに今ある電波望遠鏡のたとえば100倍ぐらいの感度の望遠鏡をそろえることができれば、実際に隣の星でやっているテレビが見られるような時代がくるかもしれない(笑)。ぜひやってみたい僕の夢ですね

「宇宙人がいる」という仮説。その出発点となる「なぜだろう?」はどんなところにあるのか、うかがってみました。



それは、自分自身を見返した時ですよね。人間ってなんなの? 自分ってなんなの?という問いです。宇宙は、偶然と奇跡の連続で成り立っていて、だからこそ、僕らは地球上に存在している。科学的な立場に立てば、ほかの星にいても全然不思議じゃない。それが根拠です
100億年巻き戻してみたら すべては星のひと粒に

天文学者は、宇宙以外、身近な自然のどんなことに「なぜだろう、なぜかしら?」と感じるか知りたいと思いました。



職業柄なのか、個々に目に行くのではなくて、なんでこんなものが地球上に存在するんだろう、という目で見てしまいますね。ミクロなもの、たとえば、僕らの体をつくっている元素は、星の中からできたわけです。みなさんの体のどんな手垢でさえ、全部バラバラにすると炭素とか窒素になりますが、それぞれの粒を100億年時間を巻き戻して、歴史を遡っていけば、必ず星の真ん中にあたる。「人間は星の子だ」という言葉はまさにそういうことです。元素が、大きな分子になり、アミノ酸になり、生命になる。その一連の枠組みの中に位置づけられています。地球上の『なぜだろう?』はすべて宇宙につながっている。そう考えてしまう僕は、やっぱり職業病ですね

すべてはつながっていると意識すると、物の見方が変わってくるということ。



そう、変わります。すごく大事ですよね。たとえば、ネイチャーゲームをやるときに、その辺の石ころを取ってきたとしても、この石ころを45億年さかのぼってみると……、という話ができますよね。時間軸を広げて自然を見てみると、自然について伝えられることが広がるのではないでしょうか

ずっと謎を解き明かしていく毎日に疲れることはありませんかと尋ねると、意外にも「疲れます(笑)」との答え。



でも、宇宙が好きだし、謎解きが好き。嫌になったら寝ますし、お酒も飲みますけど、好きだから戻ってくるんですよね

その好きなことはどんなことでもよいけれど、みんなにぜひ星を見あげてほしいと思っているそうです。



星を見る。つまり地球の外に目を向けるということです。地球の外に目を向けるからこそ、地球がいかに特別な星であるかがわかります。外を見ることで内なる物を見る。そうした「物の見方」ができたらいいなと思います



地球上の『なぜだろう?』はすべて宇宙につながっている

本間さんのこの言葉と思考を携えて、自然の中に出かけたら…、見える世界がきっと変わる。宇宙と自分とのかかわりが始まるはずです。


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.31 特集(デザイン:花平和子 編集:草苅亜衣)をウェブ用に再構成しました。
※冊子版の送付が可能です。「ネイチャーゲーム普及ツールの取り寄せ」をご覧いただき、お気軽にお知らせください。
(情報誌バックナンバーにつきましては在庫切れの場合がございます。ご了承ください。▶︎ウェブ版はこちらからダウンロード可能です。各号目次下部の<※PDFデータを開く>よりご覧ください。)