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特集:NatureGame No.93 森の色あわせ(SNL2021年3月発行)
はさみ一本と色紙で、自然の中で出会った感動、生き物たちの命の輝きを表現する今森さん。〈森の色あわせ〉そのものとも言える日々の作品作りのこと、自然のなかでの色探しの楽しみ方についてうかがいました。
紙の色じゃ足りない・・・そこが、おもしろい!

写真家・切り紙作家

今森光彦(いまもり みつひこ)さん



琵琶湖をとりまく里山の自然と人との関わりをテーマに撮影、『里山物語』(新潮社)で第20回木村伊平衛写真賞を受賞。はさみで自然の造形を鮮やかに切り取った切り絵作家としても知られる。これまでに発表した著書は300冊以上。


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1本のはさみで色紙を切り取って生まれる昆虫、鳥、草木や花。羽や葉っぱ、花びら一枚に至るまで異なる色の紙が重ねられ、ひとつ一つの命がそこに息づいている。今森光彦さんの切り紙作品を見ていると、そう感じます。



自然をお手本にして、人工物である紙から色を選んで切り取り、貼りつけているわけですが、紙に表された色と自然の色はまったく違う。自然の色には絶対にかなわない。いつもそう思いますね

と話す今森さん。こんなにも美しく繊細な色遣いで細部まで表現され、今にも自然のなかに飛び立っていきそうなのに?と驚きました。



自然物は太陽の光の中にあって初めて色を放っています。たとえば葉っぱの色ひとつにしても、てかてかしていたり、しっとりとしていたりまったく質感も違う、色の豊かさがあります。もうひとつは逆光を通して透けて見える色。透過光です。これが紙のチャートと違う点。そんななかで自分のつくりたいもの、一番近い紙の色を選び取らなくてはいけない。そこがおもしろいところでもあり、その不自由さを楽しんでいます

 今森さんの日々の作品づくりは、今回の特集〈ネイチャーゲーム 森の色あわせ〉そのもの。〈森の色あわせ〉は、18色の色が描かれた「森の色あわせカード」や色紙を持って自然のなかに出かけ、カードにある色と同じ色のものを探すというもの。色という視点で自然に集中し、自然界のあらゆるものが持つ色に注目。ひとつの自然物のなかにいくつもの色を見つけたり、微妙な色の違いを見分けたり、到底見つかりそうにないと思っていた色が見つかったり…。同じ種類の植物や生きものでも、それぞれ色の個性を持っていて、その場所、その日、その時間ごとの自然の変化に気づくきっかけにもなります。家族や友人と一緒に活動したとしたら、それぞれの感性を共有することで、自然の色の世界はさらに鮮やかに感じられるでしょう。



〈森の色あわせ〉は、アイディアとしてとてもおもしろく、今まで自然に興味を持っていなかった人が、自然物を認識する最初の手がかりになるのではと今森さん。



僕は、生き物の正式な名前を知っているとか重要でなくて、この虫とこの虫は違うというように個の生きものとしてその虫や花を認識することが大切だと思っています。農家の人もそう。図鑑に出てくる正式な名前なんて知らない。みんな自分たちが名づけた愛称で呼んでいたりする。自分と自然、生きものと直接的なかかわりを通して認識するからこそ、愛着もわく。〈森の色あわせ〉も同じように、個の色を見ていくことで、自分と自然の直接的なかかわりを生むのではないでしょうか

 今森さんの切り紙の作品を見ていると、同じ種類の虫でも違う色で表現されていて、個としてのかかわりが見えてきます。



同じ生きものの種でも個々にバリエーションがあります。たとえば、生まれたばかりの虫と歳をとった虫では色が違っていたり、昆虫は本当におもしろいです!昆虫だけではなく、すべての生きものに言えることですね

 個として認識することが大事なのは、自然そのものをよく見る行為につながるからだとも。



対象となる物を‟見たい“と思って見る。漫然と見るのではなくてね。そうやって見たものは、視覚以外の感覚とつながって、受け止められる情報が増えます。切り紙の作品も、9割は野外でエッセンスをもらってきて、残りの1割をアトリエ内でつくるという感覚です。外ではデッサンもしません。野外で集中してすべての感覚を使って見ること。そこからすべてが始まります

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「環境農家」はじめました!

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滋賀県大津市出身。20代前半の頃、大津市街からもほど近い大津市仰木という地で、ある棚田の風景に出会います。琵琶湖のほとり、比良山を望む伝統的な農地。そこは、人とたくさんの生物が隣り合って暮らす命が凝縮した場所でした。以来、仰木に通いつめ撮影、取材を続けながら、地元名士の紹介で1000坪ほどの土地を取得。今から35年前にアトリエを構えますが、今森さんがこの地でやりたかったのは、仕事場を設けることだけではなく、日本の伝統的な里山環境の再現でした。



アトリエの裏山のヒノキ林は在来種の雑木林に変え、水田のあぜ道も昔ながらの農家と同じサイクルで手入れをし在来の植物を繁殖させました。年月をかけて蝶が舞い草花や虫、鳥が集うようになったその地は「オーレリアンの庭」と名づけられ、里山の一角として生物多様性の一端を担っています。



さらに、5年前には新たに東京ドームほどの広さの農地を取得。農業従事者の申請をし、農家としての肩書も持ったのです。



20代でプロの写真家として撮影を始めたころに出会った風景が1970年代後半からどんどん失われていく。その風景の一角を取り戻したい。また、子どもたちが地面に寝転んで、安心して土と戯れられる場所をつくりたい。そうした思いを原動力に40年余りにわたって活動を続けてきました。



自分も子どもの頃からそういう場所でいろいろなことを学んできたので。今あまりにもそうした場所が少なくなりました。そのために、農薬を一切使わず、害獣を防ぐための電気柵も全部撤去しました。自分が納得しながら自由に手をかけられる土地で、多様性を取り戻すために実験的に農家としてやってみようと。その意味で僕は『環境農家』と名乗っています

 自ら整備した里山環境を舞台に親子を対象とし「昆虫教室」を続けている今森さん。2020年で22年目を迎えた昆虫教室は、この農地で行われました。2泊3日の教室の中で、子どもたちが採集した昆虫は200種類を超え、多様性を取り戻す取り組みは着実に実り始めています。今後はもっと今手がけている農地の完成度をあげていきたい、と言う今森さん。今森さんのめざす「完成」とはどんな姿なのでしょうか。



毎年同じ風景が季節のめぐりとともにやってくる。そんな風景が完成形ですね

 人と生きものが隣り合い、人が手をかけることで四季ごとに同じ風景がめぐる。そんな里山の風景を取り戻すため、環境農家としてのチャレンジが続きます。

カラスは本当に 「真っ黒」のか?

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今森さんは切り紙作品制作の際、約170種類の色のバリエーションがある紙を使用しています。170色と限られた色のなかから、この色の隣にこの色を置いてみようと苦心し、色と色が融合してマッチングしたときの感動がとても大きいと言います。



多様な色を日々見つめてきた今森さんですが、好きな里山の色をしいて挙げるなら…、と教えてくれた色は、新緑のころの「萌黄色」。



あれこそ透過光。若葉が光を受けて放つ色です。もうひとつ、自然界の色の美しさを象徴する色のひとつと言えるのは、朽ちていく色ですね。樹が朽ちかけて、苔が生えているようなグラデーション。これは紙には存在しません。濡れた感じ、湿度感が出ないんですよね。それに、自然界にある黒にも驚きます。カラスって真っ黒に見えますが、間近で見ると羽一枚一枚の黒のバリエーションがすばらしいのひと言です

小学校5、6年生の時には、200種類のチョウをそれぞれの種が特定できるほど精巧に切り紙でつくれるようになっていたという今森さん。同じ頃、切り紙でつくった鳥を自然のなかに置いてみたことがあるそうです。



自分では本物とそっくりにできたと思っていたのに、葉っぱの上に置いてみたら変に目立ってしまって。自然の色とは同じにならないんだと気づかされました。その時の光景は、今もはっきり覚えています
色合わせで 「第一発見者」になろう!

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滋賀県・仰木のアトリエで切り紙作品を前に。



自然のなかでの体験や色探しをもっと楽しむコツはどんなところにあるのでしょうか。



自分の行きつけのフィールドを持つのがおすすめですね。週に一度、月に一度でもいい、定点で自然の変化を見ていくと、色はもちろん、すべての自然の変化もよくわかります。行きつけにする場所は、身近な公園でもいいんですよ

自然観察会などで、講師を務めることの多い今森さん。その時に気を付けていることは「説明しすぎないこと」。説明、知識を得るのは家の中、机の上でできる。それよりも無数の情報が自然にはあって、空にも地面にもその情報が飛び交っているのに、そんなところで立って話をして、聞いているだけなんてもったいないと思うからです。



自分も含めて自然解説員やネイチャーゲームリーダーの方たちもきっと同じなのではと思いますが、自分が子どものころ、どんな風に自然の魅力を感じていたかというと、原っぱで寝転がったり、虫を夢中で追いかけていただけ。そうやって培った自然観なんです。それはきっと理屈ではないはずです。五感で感じ取ることを、一番大切にしてほしいですね

 昆虫教室をはじめとした里山環境の体験の場では、「第一発見者になろう」をモットーとして伝えています。昆虫教室の3日間だけでも、子どもたちはどんどん変わっていくと今森さんは言います。



自然界から〝感性の栄養″をもらおうと言っています。これは自分が獲得し見つけていくもの。そのためにもマニュアルにのっとったシステマチックな方法に頼らずに、ゆとりを持って楽しんでもらいたいです。親から離れて、自立心が芽生え、自然のなかでひとつの命に戻っていく。そんな子どもたちを大勢見てきました。そうしたチャンスをつくるという意味でもネイチャーゲームリーダーの皆さんに、自然とのかかわりの場をどんどんつくっていってもらいたいと願っています

〈森の色合わせ〉でも、初めて出会う美しい色、草花の斬新な色の組み合わせ、たくさんの色の最初の発見者になれるような気がしてきました。



自然の色のバランスは本当にすごい。たとえば一見派手な色の生き物でも、自然のなかに入ると周囲にとけこんでカモフラージュになったりします。それに、自然界には原色がほとんどなくほぼすべてが中間色。四季ははっきりわかれているけれども、そのグラデーションがずっと切れ目なくつながっている。〈森の色あわせ〉を通じてそうした自然界の色への発見、色の圧倒的な豊かさに気づく機会になるのではないでしょうか



たくさんの命が生まれる春に、生きものたちが放つ色にふれ発見できるのは、どんな色、どんなことだろう。この色が次の季節にどんな変化を見せてくれるのか。〈森の色あわせ〉は、これから私の月一、季節ごとの定番になりそうです。


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.32 特集(取材・文:大武美緒子 イラスト:いのうえみさお 編集:草苅亜衣)をウェブ用に再構成しました。
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