1996年、愛知県の山村が募集した「間伐支援隊」。都市部を中心に191名が応募しました。
自分の時間を森の保全に使いたいと考える人は30年前も多く、ボランティア元年と言われた、阪神・淡路大震災の翌年のことでした。新聞に募集記事が載り、私も後先考えずに申し込みました。
募集した町は予想以上の反響に「あなたは間伐を通して、今後の活動にどう活かしたいか」という課題作文を応募者たちに求めました。 人工林をまったく知らない都市部の人間が見たり聞いたり感じたことを、ネイチャーゲームや自然観察を通して多くの人に伝えたいと書きました。
間伐支援隊を続けるうちに、山の暮らしを知りたくなり、間伐後には指導林家(りんか)さんの家に寄ることが楽しみとなりました。
一年も経つと、家族でご飯をご馳走になり、山の暮らしの知恵を見聞きし、記録するのが習慣となりました。山作業の方法や山の暮らしをもっと知りたくて、地元の林業クラブに入会し、地元とのつながりが深まっていきました。
地元の助けを借り、課題作文に書いたことを実行していくと同時に、間伐ボランティアを卒業し、間伐を必要としている人工林を得て、そこを「やせぽっち山(さん)」と命名しました。こうやって、自宅から60キロほど離れた山行きは間伐から山遊びへとシフトしたのです。
市の青年の家主催講座ではネイチャーゲームにまつわるエピソードがたくさんあり、今でも思い出すだけでも楽しくなります。
人工林での〈フィールドビンゴ〉体験は、事前学習から盛り上がりました。 シカやリス、イノシシなどの食べ残し、角研ぎ、フンなどのフィールドサインを探すのだが、事前学習では皮付きリンゴを木に見立てて、シカになったつもりで下の歯だけでかじり、自分で食痕を確認します。
リスやイノシシ、アナグマ、カケス、ネズミの生態は?と好奇心に溢れたまま「いざ、山行き!」青年たちは木の周りを探し回って右往左往。
だれかのためのネイチャーゲームを通して山の自然を伝えました。それは、以前ほどではないですが、今も続いています。

間伐されないスギ・ヒノキの人工林は枯れ木が多く、枝の処理がされず、木の根が露出し、見上げても空はありません。
そこに一本また一本と間伐することですっきりとした明るい山に変化していくのです。
見上げた樹冠に青い空がのぞき、「少しきれいになりました!」と木に話しかけます。
ある時、家族が水滴に光ったクモの巣の上から顔を突き出しネックレスみたいだと、ほほ笑みました。
対価を得る山作業ではないので、のんびりしたもの。お茶をしながら、鳥の鳴き声や風に揺れる木々に包まれ、車の音もするけれど静寂な時を感じていることに気づきます。自分のため、その場を一緒に感じた人と共にシェアリングネイチャーです。
第21回全国ネイチャーゲーム研究大会2011年は間伐ボランティアで通った、愛知の山村で開催しました。東日本大震災が起こり、不安な中、ネイチャーゲーム創始者、ジョセフ・コーネル氏の来日は実現し無事開催できました。コーネル氏の直接指導もあり、「シェアリングネイチャーウェルネス」という言葉を初めて聞いた年となりました。
本大会のテーマは「おいでん三河の山里へ」でした。考えられないほど多くの山村の方のアドバイスや協力があったからこそ、開催できました。間伐や木の皮むき体験・写真・和菓子作り・褌とうちわ作りなど講師はすべて山村の方でした。
最終日には全国から集ったネイチャーゲームの人々に山村の自然を感じてほしいとフットパス(ぶらぶら歩き)を実施しました。
足の向くまま、気の向くままに小径を楽しみました。シェアリングネイチャーがつなぐ、大切な人たちの心身の健康を願って止まない「シェアリングネイチャーウェルネス」。

コロナ禍の4年間を通して、新たな山遊びを始めました。それは山の生きものをのぞき見することです。生きもののフィールドサインは数多く発見できるが、ヒトがいないときの生きものの様子を知りたかったのです。そこで樹高4メートルくらいにフィールドカメラを仕掛け、定点記録を行っています。
一番難しいのは、カメラの位置。方向や角度決めが記録写真の結果につながります。そこでシカになりきって、笹の茂みの獣道らしい場所〈アニマルウォーク〉で歩いてみました。笹の高さは丁度、頭の位置と同じでした。時々頭を上げて、辺りを伺う仕草もしたり足元を見たりして方向や角度の設定をしました。
〈アニマルウォーク〉した時、シカの糞を食べている、オオセンチコガネを発見しました。赤い金属光沢の体は冬の山では目を見張る美しさでした。
フィールドカメラのデータ回収をして自宅で家族と観るのも楽しいものです。データを記録していると同じ場所に生きものがやってきて休憩をしています。長い時は、二時間ほどその場所から動かないのです。「やせぽっち山(さん)の生きもの休憩場所」があることを発見しました。
大角のシカが足を横に伸ばして寝ている姿に驚きました。そこは自分たちが山の手入れの時に、いつも荷物を置く場所でした。同じ場所をヒトと動物たちが共有していることに何か深いつながりを感じます。
それは、山遊びの場所を与えてくれる山や木々への感謝となり、愛おしさをもった、山の手入れへとつながる。シェアリングネイチャーは生き方ですね。
(2026.03.25記事作成)



