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子育て
特集:Nature Game No.105〈きこりの親方〉...あそびの「天才」を育む、木育!
木と触れることが、子どもの健やかな育ちによい効果をもたらすとされ普及がすすめられている「木育」。人が木や森と親しむには、どんな取り組みが必要なのでしょうか?
「木育」の普及を続け、年間14万5000人を超える人が訪れるという「東京おもちゃ美術館」館長・多田千尋さんにうかがいました。
コミュニケーションを生む木のおもちゃ
東京おもちゃ美術館館長

多田千尋(ただ ちひろ)さん

明治大学卒業後、ロシア・プーシキン大学で、幼児教育、児童文化を学ぶ。東京おもちゃ美術館、ウッドスタートプロジェクト、グッド・トイ・アワードなどを運営する認定NPO法人芸術と遊び創造協会理事長を務め、乳幼児から高齢者までの遊び文化、芸術文化、世代間交流の研究と実践に取り組む。
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森は“感じる”にあふれている



廃校になった小学校校舎を利用して、東京・中野にあった芸術教育研究所の付属施設「旧おもちゃ美術館」から移転、2008年にオープンした東京おもちゃ美術館。そのなかの1部屋、国産杉材でしつらえた赤ちゃん木育ひろばでは、子育て中の親子が、国産材の木のおもちゃに触れ、遊ぶ姿が見られます。



『木育』という言葉を使う前から、当館での親子の様子を見てきた経験から、木は、子どもの育ちにいいはずだと信じていました

と話すのは、同館館長の多田千尋さん。理事長を務める「認定NPO法人芸術と遊び創造協会」は、同館運営のほか、赤ちゃんのファーストトイに地元産の木をつかったおもちゃをプレゼントし持続可能な国産木材活用を図る「ウッドスタート」、木のおもちゃを全国に運び、遊べる空間をつくる「木育キャラバン」など、さまざまな取り組みを展開しています。



他の子育て支援施設などと比較した調査があるのですが、この赤ちゃん木育ひろばは、赤ちゃんが圧倒的に泣かないんです。そして、ママもパパもスマホを見ない。パパ自身がよく遊びますし、滞在時間が長い。杉は肌触りがやわらかいしあたたかいので、その心地よさを赤ちゃんも大人も感じているのだろうと

日本を木のおもちゃ大国にしたい、という多田さんに、木のおもちゃのよさについてあらためてうかがいました。



木のおもちゃは〝面倒みが悪い〟んです(笑)。電子ゲームはじめ、電池で動くおもちゃはスイッチを押せば、色が変わったり、動いたり楽しさが向こうから迫ってくる。でも木のおもちゃは、眺めていてもなんにもしてくれないので、自分で楽しさをつくりだしていかなければいけません。親も子も一歩前に出て遊ぶ。そこにコミュニケーションが生まれます。それに、プラスチックのおもちゃは触れると体温を奪うけれど、木のおもちゃは肌触りがよく、あたたかくてずっとさわっていたくなる心地よさがある

と多田さんは言います。



木はおもちゃになってもまだ呼吸をし、生きているんです。夏と冬でも手触りが違います。飽きずに長く使えるというのも、そうした点に理由があると思っています



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「にわか」木のファンを本物のファンにする

東京おもちゃ美術館が普及を進める「木育」の目的は、「木が好きな人を増やす活動」。木の文化を伝え、暮らしに木を取り入れること、そして危機的状況にある日本の林業、ひいては日本の森を守ることです。多田さんは、木のおもちゃを勧めることだけで役目を果たしたと思わずに、木のおもちゃが、人と森をつなぐ接着剤の役割を果たせないかと考えているそうです。



この美術館に来る若いママとパパたちは、おそらく普段森とは縁のない人たちがほとんどです。いかにもアウトドア派っていう親子は放っておいてもいい(笑)。普段自然のことを意識していないような人たちが、木の空間に入って、木にふれることで〝にわか木のファン〟になって帰っていきます。でも、にわか木のファンはほっとくと冷めてしまうので、なにか仕掛けをしなくちゃだめなんです。実際の森に行ってもらうには、いくつかのステップを踏むぐらいに丁寧に仕掛けないと

その仕掛けについて、多田さんはこう話します。



まず、1stステップが木のおもちゃで遊んでもらうこと。2ndステップは身近な自然を引き寄せること。3rdステップが、本物の森に連れ出す

木のおもちゃを通して木や森を身近に感じてもらう2ndステップへの仕掛けとして、同美術館では毎年、東京・新宿区の新宿御苑で、日本各地の木のおもちゃを集め、訪れた人が、芝生の上で思いっきり遊べる「森のおもちゃ美術館」を開催、人気を博しています(一般社団法人ロハスクラブと共催)。



3rdステップとして挙げた実際の森に連れ出す仕掛けは、各地域の団体と連携して「おもちゃ美術館」を全国につくること。建設中、または計画中の姉妹おもちゃ美術館を合わせると15カ所ほどになるそう。現在、公開されているのは、沖縄県国頭村の「やんばる森のおもちゃ美術館」(地元森林組合が運営主体)ほかの4カ所。2022年の6月には東京都檜原村にオープン予定です。



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国産杉材の手触り、香り、色、模様などが体感できる東京おもちゃ美術館内の「あかちゃん木育ひろば」

スナック菓子と無農薬野菜ぐらい違う!

あそびの天才たちを“ふぬけ”にさせてはいけない



自然に触れることは、子どもの育ちになぜいいのでしょうか。幼児教育の専門家でもある多田さんは次のように話します。



五感をとぎすまさせるには、自然とつきあうしかありません。毎週日曜に近所の公園を散歩することだって、とっても意味がある。自然のなかで子どもは、テーマパークやショッピングモールにいるのとは次元の違う五感を使います

次元の違う五感とは?



どう違うかというと......、お菓子と無農薬野菜ぐらいに違いますね。電子ゲームをはじめとした現代的なおもちゃは、味が濃いスナック菓子みたいなもの。カロリーが高すぎるし、味が濃いし。森のなかでの遊びは例えるなら無農薬野菜。ただ、いったん人工的な濃い味に慣れちゃうと、薄味に満足できなくなっちゃうでしょ。今、多くの子どもたちがそういう現状に陥っている気がするんです。もし遊びの偏差値があるとしたらですが、森のなかでわくわく遊べる子がいたとしたら、その子のあそびの偏差値はめちゃめちゃ高いですよ

そもそも、子どもは遊びの天才、一流プレイヤーだという多田さん。



それが味が濃いものに慣れさせられて、遊びの天才たちがふぬけになっている。ふぬけになっている人間が森にいくと、つまらないんです。電子ゲームばっかりやっている子どもに、木の積み木を出してもめんどくさいんですよ。手をのばして自分で考えて、作り出さないといけないので。テーマパークと森、電子ゲームと積み木は同じ対比で語ることができると思います

レイチェル・カーソンが著した『センス・オブ・ワンダー』の中の一節。



知ることは感じることの半分も重要ではない

多田さんは、この言葉を木育において大切な指標としているそうです。



都会って知ることであふれているんだけど、森は感じることであふれている。えてして大人は、知っているか知らないか。あるいはできる、できないという見方で子どもを評価しがちですよね。でも、本当は違う。森にいって、子どもが『今の鳥はシジュウカラ』って言ったら親御さんは、すごい!って喜ぶかもしれません。でも、鳥の名前は知らないけど、『今の鳥の鳴き声、悲しそうだったよね』と感じられる子を、素敵なことと社会が認めてあげる必要があります
おもちゃ美術館を〝森〟へつなげる

木育×ネイチャーゲームで、その後の子育てが変わってくるんじゃないかな...



五感を使い、ある一本の木の特徴を感じとるネイチャーゲーム〈きこりの親方〉は、まさに「木育」でめざしている目的とも親和性が高いと多田さんは話します。



〈きこりの親方〉は、観察する力、気づく力が際立ってくるあそびですね。感性は、感じる力だけではなくて、感じたことを表現する力がマッチングすることが必要です。このあそびは、まさに「感じる」と「表現する」の2つをマッチングさせています。その感性を育てることが、乳幼児期に育てたい大切な力です

また、東京おもちゃ美術館のコンセプトのひとつが、多世代交流の場をつくるというものだった、という多田さん。



〈きこりの親方〉は、年齢構成によってルールを変えたり、メンバーに寄り添った柔軟性のある活動なのではないかと。大人だからといって有利とか、子どもだから不利ということはない。ネイチャーゲームは多世代交流に優れているともいえますね

多田さんは、各地域の姉妹おもちゃ美術館が、ネイチャーゲームのプラットフォームとして機能する可能性があると、今後の構想を描いています。



現在ある国内4カ所のおもちゃ美術館には、館内プログラムはありますが、アウトドアプログラムがほとんどないのが現状です。その地域に住むネイチャーゲームのリーダーの方とコラボして、おもちゃ美術館の周辺の自然でできるワークショップができたらいいですね

ネイチャーゲームが、木のおもちゃと外の自然をつなぐ役割をするということ。



そうして、自然とは縁遠かったママ、パパたちが『おもしろかったね』って帰ってくれたらいいなと思っています。家族そろって車でショッピングモールにしか行かない、という人に『自然っていいよね』って感じる化学反応が起きたら......。その意味はとても大きいです。その親子にとって、その後の子育て、家族の歴史が変わってくるんじゃないかと思います

「木育」と「ネイチャーゲーム」のコラボで、森に人が遊ぶ姿が増え、多世代の交流が生まれる。そんなわくわくする未来が見えました。




情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.27 特集(デザイン:花平和子 取材・文:大武美緒子 編集:山田久美子、佐々木香織、水信亜衣)をウェブ用に再構成しました。
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