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ライフスタイル
「忍者に学ぶ」....忍術で極めるネイチャーゲーム(SNL2018年6月発行)
古くから修験道場として多くの山伏たちが修行をした長野県、戸隠村。
比叡山、高野山と並ぶ霊山として多くの人の信仰を集めてきた場所です。
そしてまたここは、『ネイチャーゲーム自然学校』が10年以上開かれた、協会とゆかり深い場所でもあります。
自然を読む自然に生きる
戸隠流忍者
【自然案内人】
山口輝文(やまぐち・てるふみ)さん

「戸隠そば山口屋」店主。1993年ネイチャーゲーム指導員資格取得以降、戸隠を中心に多くの活動に関わる。戸隠流忍法「忍会(しのびかい)」メンバー。
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山門『随神門(ずいじんもん)』から樹齢400年を超える杉並木が戸隠山へとまっすぐに続く、戸隠神社・奥社。数百年に渡り伐採が禁じられてきた周囲51ヘクタールの森は、はるか昔、修験僧が荒業を行った風景を今に伝え、小さな沢音や林のなかを動く生きものたちの気配までもが時を超えて聴こえてくるように感じられます。



この尊厳な自然のなかに何も持たずに入り、自然と一体となる修行を積んだ修験僧たち。水場を見つけ、食物を見つけ、怪我や病の時には薬草を探し…。そして、垂直にそびえ立つ岩山に、手がかりを探し己の力だけで登り、自然が造った祠を修行の場として自分の内面と対峙した者たち。それらの修行を極めた僧のなかから生まれたのが、戦国の世を中心に闇の世界で活躍した「忍者」だといわれます。



忍者というと手裏剣や忍び杖など、派手な部分が注目されがちですが、戸隠流忍法の本流は、何も持たずに敵から身を守る『体術』です。そして相手を倒すことを目的とせず、相手から逃れるために相手の戦力をうばう、そのための忍術なんです。忍者はじつはとても地味な職業だったんですよ

そう語るのは、戸隠村で戸隠流忍法の保存活動を行っている山口輝文さん。服部半蔵や雲隠才蔵などのヒーローを想い描いていた頭には、ちょっぴり肩すかしを食らった感じです。



しかし、ご自身が営むそば店のテーブルに挟まれた狭い通路で、いとも簡単に受け身の技を見せてくれたその切れ味鋭い姿は、古のヒーローを思わせる格好よさ。そして、この体術で会得する技や自然との関わり方が、「シェアリングネイチャーの活動ととても似ていると思うんです」というのです。



山口さんは、戸隠流忍法の保存活動を続ける一方、ネイチャーゲームの活動にも長く関わり、現在は『戸隠シェアリングネイチャーの会』代表を務めます。そして、日本協会が戸隠村の宿坊を活用した『戸隠高原自然学校』を立ち上げ、運営していた当時、地元責任者を務めた方なのです。戸隠高原自然学校は、宿坊を利用する以前、ペンションを宿として活動をしていた時期を入れると、十数年にわたり多くの子どもたちに宿泊型の自然体験活動を提供しました。さらに、指導者養成にも力を入れ、多くの指導者を輩出しています。



「忍者」を生んだこの戸隠の尊厳なる自然は、山口さんがいうようにどこかシェアリングネイチャーの活動と根元的につながり、多くの参加者を、そして指導者を、深い気づきへと導いたのではないでしょうか。

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唯一無二の忍者のルール「生き延びる」
忍者といえば「伊賀」と「甲賀」というのが定番です。ところが、往時日本には全国に80を数える忍術の流派があったと伝わります。それらの多くは伊賀と甲賀から分かれた流派だといわれますが、じつはこの伊賀と甲賀、ともに戸隠で修練を積んだ者たちが「忍術」を伝承したという説があり、戸隠流忍法は日本の忍術の源流のひとつとされているのです。



そして現在、伊賀・甲賀をはじめ各地の流派で継承が途切れているなか、戸隠流忍法は800年に渡り途切れることなくその技が継承されています。



つまり忍者の使命はどんなことがあっても主君の元に生きてたどり着き、情報を渡すこと。忍術とは〝生き延びるための技術〟。忍者は勝たなくても良い。〝負けずに生き延びて必ず帰る〟ことが求められたわけです

と、山口氏。



行商人や僧侶、時には親子何代にも渡って町人や武士として敵地に居を構え情報収集活動を行ったという忍者。日常的には武器を携帯しないことも多く、そのため身を守る術は、指一本で自分よりも大きな敵をも倒すことができる骨指術(こっしじゅつ)・骨法術(こっぽうじゅつ)だったのだといいます。



武道として確立された柔道などでは〝関節技〟はルール違反とされます。でも『護身術』である忍術にはルールはなく、急所攻撃は効果的とされます。人間の体には〝急所=鍛えられない場所〟が多くあり、小さなもの(弱者)が大きなもの(強者)を倒すには、人間の体を知り尽くし、急所を効果的に攻撃するしかないんです

相手を倒すために人間の体を知り尽くし、効果的な方法を編み出す。それは自然に向かうときにも、動物の体や行動を知るのはもとより、自然の構造や流れを知ることにも通じているのでしょう。

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自然を読むのも忍者の修行

忍び足、気配を消す…ネイチャーゲームは「忍術」です


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どんな状況下でも生き延びるためには、前述したように「毒草、薬草、自然のなかで食べられるものの知識」などが必要です。また、自然の観察にも特化し、周囲の状況を読み、自然の動きを利用し自然の猛威から身を守る術が求められました。忍者にとって「観天望気」などの知識も大切なもののひとつとされています。


Nature Game No,029 <カメレオンゲーム>

夜のネイチャーゲーム。カメレオン役と探検隊役にわかれ、

カメレオン役は森に溶け込むように潜み、探検隊はそれを見つける

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このような知恵や視点も、「ネイチャーゲームに通じるところがある」と感じているという山口さん。



そして個々のアクティビティをみると、忍術と重なるものがいっぱいあると…


Nature Game No,031 <いねむりおじさん>

居眠りをしている山賊に気付かれないように、音を出さないように忍び足で「宝物」を取りに行くネイチャーゲームです。





忍術に『抜足、差し足、忍び足』という技がありますが、〈いねむりおじさん〉で行うインディアンウォークはまさに『忍び足』です。また、忍術には『うずらがくれ』という、石になって気配を消す技があります。これを〈カメレオンゲーム〉に用いると、グンと見つかる確率は低くなると思います。気配を消す…その秘訣は、忍術では〝印(忍術に定められた形に手を組む)〟を切って意識を集中することだといわれます。これにより〝気〟を内側に向け、体の外に出ていかないようにできれば、自分の気配を消すことができる。科学的な理屈はわかりませんが、そういうことなんじゃないかと思っています

このほか、感覚を研ぎ澄ませて、常に自然を読む鍛錬を積む忍術の修行は、〈カメラゲーム〉や〈音いくつ〉などの自然観察力を研ぎ澄ますアクティビティに共通するものが多いという山口さん。
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音を聞くときは全身を聴覚にして、音を通して自然の細部の変化までを察知するようにすると、いつか自分の気配が消え、自然の一部となっていくのかも…。忍者の世界に少しだけ近づけるような気がします。



Nature Game No,007 <音いくつ>

耳を済ませて周りの音をじっくりと聞き、聞こえてくる音の数を数える活動です。

snl21image10.jpg 岩屏風の戸隠山には「天の岩戸伝説」もある。

護身術と精神性 現代に生きる「忍法」

忍術を通して伝えたいことは、自然の一体感と「正心」です。



忍者は、二重スパイは絶対にしてはならないとされています。雇い主に絶対的な忠誠心を持つ。この『正心(せいしん:嘘をいってはいけない。いつも正しい心でいること)』を、自然との一体感とともに、忍術を通して子どもたちに伝えたいと思っているんです(山口氏)

スパイの正否は別として、この忠誠心に見られる「正心」は、日本人の精神性を支えたものであり、『忍術』という時を超えて継承される武術のなかで、今後も人間性の育成に大きな貢献をするのではないかと思えます。



そして、忍術の修行で最初に徹底的に行うという〝受け身〟の練習。相手の攻撃から身を守り、倒れても怪我をせず、立つ時にはすぐに次の構え(攻撃、受け身)ができる態勢をとるというこの〝技〟も、どこか自然に対する人間のあり方に通じるような気がします。



現在、忍術は『武術』の一種として捉えられ、海外では「護身術」として広められ、軍隊などでの普及も行われているそうです。また、看護の現場でも、患者の暴力から身を守る技として看護師が習得している例があるとも聞きます。



しかし、『忍術』を生んだ修験僧が暮らした戸隠奥社周辺の森を歩くと、忍術の持つ武術とは異なるもう一つの側面が、深く何かを語りかけてくるように思えます。何も持ち込まず、この自然のなかで生き抜くために、自然を知り尽くし、自然からのメッセージを聴き、己の心身を鍛え、内的自然と向き合ったその姿。シェアリングネイチャーを目指すものには、その在り方が、どこか心惹かれるのかもしれません。

snl21image11.jpg 戸隠山に続く参道の杉並木。


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.21 特集(デザイン:花平和子 編集:伊東久枝、佐々木香織、水信亜衣 表紙イラスト:矢原由布子)をウェブ用に再構成しました。
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