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ライフスタイル
うんこはごちそう...「循環」と「分解者」を知る
「うんこ」と聞くと、多くの大人は顔をしかめます。
子どもたちはみんな、この言葉が大好きなのに…
そんな思いを密かに抱え
「うんこ」を汚いもの、不浄なものとする現代社会に
ひとり警鐘をならす、〝糞土師〟の伊沢正名さんに
「うんこ」の魅力をたっぷり
おうかがいしてみました。
肝心なのは「食べる」「出す」
循環と共生の実践者
【糞土師】
伊沢正名(いざわ・まさな)さん

社会体制に反発する動きが活発だった1970年代、自然保護活動に没頭。その後キノコ写真家として活躍。現在は「うんこ」を通して「命の循環」を伝える活動を行っている。
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自分のうんこを見て「おいしそう!」と思う人はいるでしょうか? まずいないと思います。現在、多くの人はうんこを〝汚いもの〟と感じ、水洗トイレで水に流し、生活空間から瞬時に排除する方法を選んでいます。けれど、自然のなかで見つけた野生動物のうんこはどうでしょう? これは動物の種類により、感じ方に個人差があるように思います。



キノコ写真家であり、自然界で分解される糞の観察を長年続け、最近では自らを「糞土師」と名乗る伊沢正名さんは「自然界ではうんこはごちそう。その証拠に自然のなかに放置された哺乳類の糞は、多くの場合、数日でなくなってしまう」といいます。では、〝なくしている〟のは、誰なのか…。



以下は、伊沢さんによる、『自然界に放置されたうんこに集まってくるものの代表と出現順(目視)』です。



①ハエ

②イノシシ、ネズミなどの雑食性動物

 アリ・フン虫

③菌類

④ミミズ

⑤モグラ(ミミズを食べる)

うんこを土のなか浅く埋めておくと、掘り出されたような穴があいていることがよくあるそうです。また、日数が経過したものは、うんこ全体がまんべんなくアリの巣になっていることも。「アリにしたら、おとぎ話の〝お菓子の家〟だよね」とは伊沢さん。



さらに、うんこがあった部分だけに、新しい木の根がぎっしり伸びて広がっていることも少なくないそうです。この根には、じつは共生する菌根菌がついていることも多く、菌根菌は栄養源を素早く察知し、土のなかの無機塩類や水分を吸収して木に提供し、自分の成長に必要な炭水化物(糖質)などを木から得ています。



植物は動かないと思っていたんですが、すばらしいセンサーを持って積極的に生きているんですよね(伊沢氏)

そして、うんこのあったところから新たな植物の芽生えがあり、またキノコが生え…。命のバトンがつながります。

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うんこを食べる

え〜っ、うんこを食べる…そう思った方! では、うんこを食べるものがいなくて、うんこがそのまま森に放置され続けたとしたら森はどうなるでしょうか。野生動物が多い自然豊かな森であればあるほど、森のなかはうんこだらけになっていきます。うんこだけでなく、動物の死骸や枯れた草木など、森のなかはさまざまな命の残骸がうずたかく積もってしまうはずです。



しかし、森はそうはなりません。常に同じような分量の落葉が積もり、草木が育ち…。そのような環境が保たれているのは、死骸やうんこ、枯葉などを食べて粉砕・消費する動物が存在し、さらにそれを〝無機物〟に分解する菌類(キノコやカビ、バクテリアなど)がいるからです。



植物は、光合成を行って、無機物からすべての命に必要不可欠な〝有機物〟をつくるため、「生産者」と呼ばれます。そして、植物を食べ、あるいは植物を食べた動物を食べて〝有機物〟を得、生きている動物を「消費者」。これに対し、枯れ木やうんこ、死骸などの〝有機物〟を分解し、元の無機物に還元する菌類を「分解者」と呼びます。


自然界や命を考えるとき、私たちはどうしても「食べもの」をつくる生産者である植物に目がいきがちです。しかし、その植物が利用する無機物は地球上に無尽蔵にあるわけではありません。「生産者(植物)」がつくった有機物を分解し無機物に還元する「分解者」がいて、その大いなる循環が保たれているから、自然は成立しているのです。



本来の自然保護とは、この「循環を取り戻すこと」だというのが伊沢さん。



人間にとって役立つ自然や貴重だと思う自然を、そこだけ切り取って保護しようという活動は、本来の自然保護ではないと私は思います。現代の日本では、人は死んでも土に還れず、うんこは処理場で焼かれて、その灰はセメントの原料にされたりしているんです。自然から搾取だけして何の還元もしない。それが今の人間社会なんです。自然の循環から逸脱している。一方、食物連鎖の頂点に位置し、多くの命を奪って生きているライオンやトラ、ワシやタカなどでさえ、きちんと自然の循環に入っているのは、彼らは死んだら他の生きものの餌となり、そして野糞をしているからです

現代人がみんなで野糞をするのは難しいとしても、一昔前まで日本では人糞を「肥やし」として利用していたように、糞尿の利用方法やバイオマストイレの開発など、現代だからできる方法もきっとあるはず…。

『食は権利、うんこは責任、野糞は命の返し方』

---- 伊沢さんの掲げるスローガンです。

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キノコの「うんこ」

snl17image03.pngでは、「うんこ」とはなんでしょうか。うんこはまぎれもなく、排泄物です。すべての生きものは、何かを体外から取り入れ、栄養を吸収し、そして不要なものを体外に排出します。すなわち、これが「うんこ」。唯一、無機物から有機物を生産する植物も、生産過程でできる不用なものは排出をしています。その代表が、私たちには必須の「酸素」です。そして分解者の菌類、キノコもうんこをします。それが、植物が有機物を合成するのに不可欠な、リン・カリウム・チッソなどの「無機塩類」と「二酸化炭素」。



つまり、植物はキノコなどの菌類のうんこを食べて、すべての生きものに必要な有機物をつくっているのです。その植物のうんこ「酸素」を吸って私たち人間は生きています。うんこは他の生きものに不可欠なごちそう…といえるのです。



伊沢さんがキノコの写真家となったのは、山歩きをしていたときに出会ったキノコの美しさと多様性に魅かれたから。しかし、その生態と自然界での働きを知るにつれ、以前から活動していた自然保護とキノコがつながります。



以前は、有機物の分解はミミズなどの土壌動物とバクテリアがほとんどを担っていると思っていたんです。ところが、動物は噛み砕きや胃腸での消化などで、有機物をより小さく簡単な物質に変えてはいきますが、最終的に無機物にまで分解するには、キノコやカビなどの菌類の働きが欠かせないわけです。有機物を無機物に戻す〝分解者〟の筆頭はやはり菌類です。枯れ木や落葉の分解など、キノコが存在しなかったら自然の生態系は成り立たない。なのに表舞台で派手に振る舞うこともなく、ひたすら縁の下の力持ちに徹し、嫌がられる〝死〟や〝うんこ〟を腐らせることを通して〝生〟の世界に蘇らせていく、キノコの存在に本当に魅了されました

という伊沢さん。



ところが、あるきっかけで「うんこが土に還る過程を写真に撮って証明する」という課題に挑戦するうちに、〝自然の循環と共生〟の思った以上のダイナミズムに取りつかれてしまいます。



じつは、先に紹介したうんこに集まる生きもののデータは、何を隠そう、伊沢さんが林のなかでした自分のうんこを掘り返して調査した結果です。「自然=循環と共生」という伊沢さんのモットーは、「人間のうんこもきちんと自然に戻すべき」というもの。すでに43年以上、野糞を実践しているという強者です。ただし、そこには「正しい野糞のしかた」というルールがあります。



それは…「場所を選ぶ、穴掘り、葉で拭く、水で仕上げ、埋める、目印をつける、一つの場所には年に1回」というもの。自然環境に悪影響を及ぼさず、他の人にも迷惑をかけないように細心の注意を払っているそうです。「野糞」の是非は別として、これらはうんこの〝循環〟を考えるうえで、ひとつの指標になるのではないでしょうか。

うんこもそうですけど、最近は生活の場から汚いもの(菌)や臭いさえも、執拗に排除しようとしていますよね。〝菌〟を遠ざければ、健康になれるのか。むしろ抵抗力を高め、ある程度の環境の悪化に太刀打ちできる体をつくることのほうが大切ではないのか。そんなことを考えたりします

とは伊沢さん。



自然が「循環と共生」であれば、人間に都合の悪いものだけを排除することはできません。あるものを排除すれば、その周りのものも一緒にダメージを受け、またそれらにつながるものもダメージを受けるのが自然のしくみです。「うんこ」は、そんな自然の壮大なしくみを雄弁に語っていたのです。

◉Nature Game №127
「ネイチャーループ」
魚、虫、鳥、植物、石…すべてのものがつながっていることを実感する
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毎日の暮らしのなかで、自分と自然とのつなが りをダイレクトに実感することは少ないもの。で も、自然界に目を向け、生きものと生きもののつ ながりをたどると、思わぬ連鎖を見つけることが できます。  マツタケ、マツ、マツボックリ、ネズミ、タカ…。 カードに描かれた「自然の一つの要素(生物)」に なって、自分とつながるものを見つけていくと、そ れはやがて大きな輪に! すべての自然がつな がっていることを実感できるネイチャーゲームです。


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.17 特集(デザイン:花平和子 編集:佐々木香織、水信亜衣、伊東久枝 表紙イラスト:矢原由布子)をウェブ用に再構成しました。
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