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特集 Nature Game No.090〈動物の弁護士〉...「共存」って何だ?(SNL2019年6月発行)
今、自然はどんな状況に置かれ、どんな視点を持てば、人と自然の共生につなげられるか。
この前提を知ることは、ネイチャーゲーム〈動物の弁護士〉を実践するうえでとても大切です。
日本自然保護協会で、長く日本の自然保護の最前線に立ち、森や川をはじめ、
日本の生態系を守るため活動してきた横山隆一さんのお話から考えます。
日本の自然を守るための〝しくみ〟をつくってきた40年
横山 隆一(よこやま りゅういち)さん
高校生物教員をへて1982年、日本自然保護協会に就職。赤谷の森などの国有林プロジェクト、政府施策の立案参加、公務員への自然保護に関する研修などに長年たずさわり、2019年1月に同会を退職。現在も同会参与として同プロジェクトに引き続き携わるほか、執筆活動などを行う。日本イヌワシ協会副会長。
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人に自然のおもしろさを伝えることが好きで、理科の教師になったという横山隆一さん。でもそこで目の当たりにしたのは、自然が大規模開発などで丸ごとなくなっていく現実でした。1970年代~1980年代初頭のことです。



まずは日本の自然を守らないといけない

その危機感から1982年24歳のとき、大学在籍中から活動に参加していた日本自然保護協会に就職しました。以来、日本の自然保護の最前線で活動、自然の価値を世の中に広め、国有林をはじめ、日本の森を守るための仕組みづくりなどに取り組んできました。



1990年代から20年ぐらい、開発から自然を守ることに関しては連戦連勝でした

と話す横山さん。



しかし、その一方で



悪化が加速するばかりの自然がある

と言います。



Nature Game No.090〈動物の弁護士〉



複数名のリーダーが野生動物役と弁護士役に扮して、参加者の前で「動物たちを取り巻く環境の変化」や「人間の活動が動物たちに与える影響」について語るネイチャーゲームです。動物と弁護士のやり取りを聞きながら、参加者にその動物たちが置かれている状況や人間と自然の共存について考えるきっかけを提供します。



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あたりまえにあった身近な自然が失われている
さわらなくてはいけない自然をさわらないために悪影響をおよぼしている場所、里山や田んぼ、人が手を入れて生態系の豊かさをつくってきた自然です。バッタやメダカなど少し前までごくあたりまえに見られた生き物が、絶滅の危機にある現実があります。現在、日本の絶滅危惧種の約半数が、そうした身近な自然を生息環境にしてきた動植物です



さわらなくてはいけない自然をさわっていない背景には、どんな要因があるのでしょうか。



農業、畜産業、林業をはじめとした第一次産業の衰退、伝統的な自然利用を続けてきた田舎がなくなってしまったことがもっとも大きな要因です。以前は、エネルギーを得るのに薪を使っていたので近くに蒔山が必ずありましたが、今はお金で石油を買います。かつての人の手でつくられた田んぼには無駄や余地があり、そこで多様な生き物が生きてきました。今のような大型機械ですべて規格通りにつくった田んぼには、生き物が住める隙間がないんですね

自然を元のレールに置き直す試み赤谷プロジェクト

身近な自然が失われていることに危機感を強くしていた2000年初頭、持続的な自然利用をできる地域づくりと多様な自然環境再生事業を目的に日本自然保護協会のほか、地域住民で組織する赤谷プロジェクト地域協議会、林野庁関東森林管理局の3つの中核団体が協働で立ち上げた事業があります。群馬県みなかみ町北部と新潟県県境に広がる約1万haの国有林「赤谷の森」を対象とした「赤谷プロジェクト」、今年で16年目を迎える事業です。



赤谷の森は、入口の猿ヶ京温泉から上越国境の山々まで標高差1400m、奥山にはブナ、ミズナラの自然林、里山には人工林とかつて薪炭林であったコナラ林、希少種のイヌワシ、クマタカ、ツキノワグマの生息地でもあり、かつて交易路だった旧三国街道が通じるなど、古くから人と自然がかかわり、多様な自然を育んできた背景があります。



同プロジェクトで猛禽類のモニタリング調査などを担当してきた横山さん。現在、取り組んでいる試みのひとつが、絶滅危惧種イヌワシの生息環境の質を向上させるための「狩か り場ば創出実験」です。



赤谷の森には、1つがいのイヌワシが生息しています。2003年以降12年間で4回繁殖に成功したものの、2010年以降、5年連続で失敗していました。



イヌワシは開けた草原や林間に隙間のある場所を狩場とします。赤谷の森に暮らすつがいは、もともとは、奥山のブナの自然林や里の雑木林を狩場にしていましたが、それらが皆、戦前戦後にスギやカラマツの人工林にされてしまいました。植えられた木がまだ若いころは人工林でも狩場にできたものの、放置され、林の上部が完全に閉ざされてしまい林床の植物も育たず、エサになる動物も暮らせなくなったこと。さらにイヌワシが森林内に入り込めない環境になってしまったことが原因だと考えています。その人工林を伐採し、再造林はせず自然林を再生させ、エサ不足をなくそうというのが狙いです



2015年9月に約2haの伐採を行い、伐採前の1年間と伐採後2年間のイヌワシの行動を比較する調査を実施。その結果、イヌワシが獲物を探す行動が増える状況を2年間維持。さらに、狩場創出直接の効果ではないとしながらも2016年6月、赤谷の森にすむイヌワシのつがいが、7年ぶりに子育てに成功したことが確認されました。

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動物保護を考えるときにヒューマニズムを持ち込まない

赤谷の森にすむイヌワシをテーマに〈動物の弁護士〉プログラムをつくるとしたら......、との問いに横山さんはこう話します。



〈動物の弁護士〉が優れているのは、最低2種、できれば3種の動物を登場させるという点ですね。イヌワシの生息環境改善は、イヌワシのためだけではない、そこに住む動物すべての生息環境改善が目的です。そして、これは赤谷に住む動物だけではなく動物の保護を考える際の根幹になりますが......、野生で生きる動植物の精緻な仕組みを知り、野生の世界で起こる物事をヒューマニズムで判断しないこと。これが大前提になると思います



ヒューマニズムで判断しないとは?



〈動物の弁護士〉は、動物の困りごとを聞くネイチャーゲームですね。たとえば、イヌワシはノウサギをつかまえて首だけをもいで体を食べる。その様子を見て残酷だ、かわいいノウサギはイヌワシが減れば、食べられなくてすむから困らないじゃないか、と言う人がいたとします。それがヒューマニズムからの視点です。野生動物が生きる自然界は、個を守るためではなく、種を守るためにできています。その精緻な仕組みで成り立っている自然界にヒューマニズムを持ち込むと、つじつまが合わなくなって、多様性が失われることにつながります

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食べる動物と食べられる動物〝ニッチ〟の違いを知る

精緻な仕組みのひとつが「ニッチ」=(生態的地位)の違いだと横山さんは言います。イヌワシは奥山から山里を行き来し、10~20㎞もの距離を移動しながら狩りをします。そこで平均して1週間に1頭はノウサギを捕る。ノウサギは1k㎡に数家族、少なくとも10頭はいるでしょう。イヌワシが1週間に1頭ノウサギを捕っても、繁殖力の強いノウサギは、元の数に容易に戻すことができ、種の存続が脅かされることはないのです。



イヌワシは1年に1~2個しか卵を産みません。ノウサギは1年に5~6頭。捕食する動物は増えすぎない仕組み、食べられる動物はそれを前提にした仕組みになっているのが自然界です。その仕組みからはずれ、ヒトだけが個を増やしつづけ、破綻が生じているのが現代です。つまり野生動物は、健全に生きられる環境さえあれば困りごとはありません。逆にすべての動物にとって困ること、それが環境を壊してしまうことです

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都会の消費者が生産者として週末、自然にはたらきかける
自然界のバランスが破綻したままの状態が続くと、強いインパクトで自然はその不均衡を解消しようとする。人間にとっての脅威が必ず訪れます。温暖化はそのひとつと言えます



横山さんは、「だからといって人間の生活、社会を昔に戻せばいい、というわけではない」としたうえで、今後、人が自然と折り合いをつけていくためのひとつの示唆をくれました。



大量消費だけしている都市近郊のサラリーマンが、週末は田舎で自然にはたらきかけて、生産者として活動する。稼ぐ働きと自分の生活資源を生産する働きを一人の人が両方もつようなライフスタイルが、今後必要とされるのではないかと思います。サラリーマンが週末、生活の糧の一部を得られ、そこに昔から住む農家が田畑を維持するやりがいを感じられる。そのための制度設計が必要です。その役割が政治ですが、いちばんその政治が変わっていません......。税制面も権利面も制度で解決していかないと、農村を維持する担い手がいないまま、自然環境は悪化の一途をたどるでしょう



赤谷の森は、首都圏からも1時間半~2時間程度で行けます。



赤谷の森の農地、農地の隣地が週末の暮らしを用意する場になりえる

と横山さん。



野生とは。私たちが今後どう生きていくか。〈動物の弁護士〉を、それらを学び考え、共有する場にできたら......。



そう、それができれば、今圧倒的に不足している高校生以上向けの自然教育ツールになると思います(横山さん)



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情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.25 特集(デザイン:花平和子 編集:佐々木香織、山田久美子 表紙イラスト:矢原由布子)をウェブ用に再構成しました。
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