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対談 いまあらためてネイチャーゲームが目指すもの
2010年度から理事長に就任した服部道夫、改革の中核を担う常務理事小泉紀雄に、団体設立当初からさまざまな形で協力をしていただいている筑波大学大学院准教授の吉田正人氏をお迎えし、対談を行いました。
体制一新!! 新執行部と翻訳者の熱いメッセージ

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吉田正人(よしだ まさひと)

筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授
日本ナチュラリスト協会、東京都高尾ビジターセンター、日本自然保護協会において自然保護教育に携わる。1982年、J・コーネル著『SharingNature with Children』と出会い翻訳を担当。現在は大学院で自然保護論、世界遺産論などを教えている。

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小泉紀雄(こいずみ のりお)

日本体育大学大学院教授野外方法(山野)研究室主任
日本ネイチャーゲーム協会常務理事、指導者養成員会委員長を務める。社団法人日本キャンプ協会専門委員、財団法人自然保護協会自然観察指導員、日本環境教育学会会員。大学では、野外教育・ネイチャーゲーム・キャンプ活動などを教えている。

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服部道夫(はっとり みちお)

社団法人日本ネイチャーゲーム協会理事長
1990年以降、理事及び事務局長としてネイチャーゲームの普及に従事。2010年5月理事長に就任。シェアリングネイチャーの理念を具現化するため、キンランの保護活動など身近な自然の保全活動にも取り組んでいる。

※本記事は情報誌「ネイチャーゲームの森 vol.73」(2011年3月15日発行)より転載しています。団体名称、役職者名等について発行時の表記となっている場合があります。

日本協会は現在、国の公益法人制度改革による公益社団法人への移行を見据え、運営全体を見直し、活動方針や規約の改訂を行っています。そこでこのたび、2010年度から理事長に就任した服部道夫、改革の中核を担う常務理事小泉紀雄に、団体設立当初からさまざまな形で協力をしていただいている筑波大学大学院准教授の吉田正人氏をお迎えし、対談を行いました。

今号では、この対談のなかから、三者の持つ日本協会の今後への熱いメッセージをお届けしたいと思います。

20代の若者たちの熱意で日本に導入!

服部:
早いもので、ネイチャーゲームが日本に導入されてすでに今年で25年です。ここで一度これまでを振り返り、今後の進むべき方向を考えてみたいと思い、本日は常務理事の小泉と日本導入にも大きく係られた吉田さんにお越しいただきました。

吉田:
ネイチャーゲームの原書を私に初めて見せてくれたのが服部さんでしたよね。

服部:
そう、1982年です。アウトドア雑誌にネイチャーゲームの原書『Sharing Nature withChildren』が紹介されていて、そこに書かれていた「自然を分かち合おう」という言葉が心地よく響いて、本を取り寄せたんです。当時私は高尾山ビジターセンターの自然教室でボランティアをしていたので、最初に見せたのがビジターセンターで解説員をしていた吉田さんでした。

吉田:
本を見て、知識の押し付けではなく生態系のしくみなどもゲームとして教えていて、すごい!と思いました。それで自分たちでやるために、いくつか翻訳したんですよね。やってみたら子どもたちの反応もいいので全部訳そうという話になり、日本ナチュラリスト協会のメンバーに声を掛けて訳すことにしました。

服部:
当時吉田さんが26歳、私は30歳を越えていましたが(笑)、日本ネイチャーゲーム協会の前理事長の降旗を含め、日本導入に動いたメンバーのほとんどが20代の若者だったんですよね。

吉田:
メンバーの芳賀啓さんが柏書房にいたので日本語版の出版に動き、86年には『ネイチャーゲーム1』を出版した。このときタイトルが「シェアリングネイチャー」という言葉では一般の人に分かりにくいからと「ネイチャーゲーム」にしたんです。

服部:
本当に若者たちの熱意で始まった活動なんですよね。それから90年に日本協会の前身である『ネイチャーゲーム研究所』が創設され、93年に日本ネイチャーゲーム協会となり、地域の会が全国にでき、2004年までは会員も右肩あがりで増えてきました。ところがその後は、指導者講習を受ける人がちょっと減り、若い人たちが組織に入ってこない・・・。

生物多様性保全の普及にネイチャーゲームの視点は今も新しい

吉田:
若い人の環境意識は確実に高まっています。環境保護は特殊な人がするものではなくなりました。参加者の減少は、不況のあおりで自己投資できる余裕のある人が減り、また、ある程度関心のある人が受講してしまった・・・ということもあるのではないでしょうか。『生物多様性に関する条約』が採択されたのは92年ですが、「生物多様性」という言葉が一般的に使われるようになったのは2002年ごろ。生物多様性普及の視点で見ても、ネイチャーゲームは、今でも決して古いものではないはずです。

小泉:
今の若い人は責任ある立場をとりたくない傾向にあるように思います。自分が指導者になって人を集め、プログラムをやろうという人が少なくなったのかもしれませんね。あと、私の勤める大学はスポーツ専門の大学なのに、木登りをしたことのない子がいる。都会の子は、親が都会育ちだと田舎もなく、親自身が自然のなかで遊んだ経験がないので、遊び方が伝承されていない。

吉田:
私の勤める大学でも環境問題を専攻したいという学生の多くが、地球温暖化防止や国際環境情勢の話はするが、自然の中で遊んだ経験はない。頭でっかちなんです。でも、自然との一体感を心の奥で持っていないと本当の行動は起こらない。

小泉:
コーネルさんが育った場所は、カリフォルニアの自然豊かな地域で、キツネを追いかけて遊んだり、洪水のあと溺死した動物を見てショックを受けたり・・・。ネイチャーゲームの根底にある思想は、そのような自然とのやり取りのなかで得たことなんですよね。メディテーションなどで心を落ち着けることによって自然の中に入っていくことができる。五感を研ぎ澄ますことによって、「内なる心」が豊かになる。自然との一体感を得ると「無」の状態が生まれ、それが真の平和、平等への意識につながる。

服部:
コーネルさんにとってネイチャーゲームの活動は平和活動でもあるんですよね。平和の本質は自然とともに存在すると考えている。

小泉:
世界平和を願って、ネイチャーゲームの活動をしているということは事実ですね。

吉田:
コーネルさんのすごいところは、伝えたいと思っている世界を自分で実践しているところです。メディテーションをして心の平穏を見出すことを常にしている。自然との一体感によって得られる心の平穏は、テキストを読んで伝えられるようになるものではない。彼が本当に伝えたいことを知るには『ネイチャーゲーム3』を読まないとわからないと思います。ネイチャーゲームは形から入るので誰でもできる。けれど形の奥にある本質を理解しないと、ゲームの数だけの活動しかできないのです。

小泉:
コーネルさんは指導をするときに「感じて欲しい」とよくいいます。ネイチャーゲームには、活動の奥に"深いもの"が存在する。アナンダ村で最初にコーネルさんの指導を受けたとき、私は「こわい!」と感じました。大変な世界に入っちゃったな、と(笑)。

シェアリングネイチャーの理念で 心を豊かにする社会を築こう
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吉田:

今、幸せの指標が変わってきています。経済的には豊かでなくても、自然を友としていきたいという価値観を持っている人が増えてきている。経済指標で測れるような豊かさを求めるなら、里山など非効率で価値がありません。しかし里山で、小規模でも命とともに生きる農業をしようという人がいる。「何に幸せを感じるか」ということがこれからの豊かさの指標には非常に大事で、『ネイチャーゲーム3』にはそのヒントがあると思います。

小泉:
今は「人間の欲望」の反動として自然を痛めつけている。自然とともに生きるならば、もっと感性豊かな人間教育をしていかなければなりません。そして、心を豊かにするためにも、自然との触れ合い、仲間と共に生きる喜びといった「知性と感性」を教育していく必要があります。

服部:
これまでの25年は活動の普及を第一に考えた時期でした。もちろんこれからも普及は大切ですが、「シェアリングネイチャー理念の実践」を一歩深める時期に入ったのではないかと思っています。

吉田:
今後日本人は、貨幣経済では測れない豊かさをつくっていかなければなりません。ヨーロッパは時間を掛けて物質的な豊かさを獲得していったので、都市のそばにも公園や池が残り、生活文化も受け継がれています。しかし日本は急激に豊かになったため、家族のつながりや地域の相互扶助の文化も吹き飛ばしてしまった。お金では測れない心の豊かさを取り戻すために、シェアリングネイチャーの考え方、ネイチャーゲームの活動は役に立つと思います。

服部:
先行きが見通せない時代だからこそシェアリングネイチャーの考え方は、個人の生き方に、よりよい社会をつくるために、役立つと思うんです。そして『シェアリングネイチャーの6原則』は自分が理解できたところから実践できるので、日常生活にも取り入れやすいと思います。

吉田:
経済成長の次に来る時代は人と人との関係を再構築するのが大きなテーマだと思います。そこにもシェアリングネイチャーの理念は利用できます。

服部:
本日は大変有意義なお話をお聞きすることができ、今後の日本協会の活動の方向が見えたような気がします。ありがとうございました。

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取材・文/伊東久枝
写  真/日本協会
構  成/編集部

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