みなさまは“リトリート”という言葉をご存知ですか?
日本語では「転地療法」や「転地療養」と訳されていて、つまりは昔の湯治や養生などの日本文化に、西洋からのウェルビーイング(健康)の概念が統合された、新しい旅の文化のことです。
旅先でヨガをしたり、自然食をいただいたり、マインドフルネス(瞑想)などのプログラムを体験する、自分を「ととのえる」旅と言えるでしょう。
はじめまして、ネイチャーセラピストの豊島大輝(とよしま たいき)と申します。
私はかれこれ25年以上前から、このリトリートについて取り組み、多くの方に自然に親しんでもらいながら、健康と癒しをお届けしてきました。
そんな私は、リトリートの現場には多くのネイチャーゲーム的な視点があることを、実際の現場で感じてきました。その気づきを、皆さまに共有いたします。

リトリートとは、自然への転地より「ありのままの自分」「本当の自分」に還る旅のことです。
つまりは、肩書や役割に縛られた「社会の一部」から、本来の人の姿である「自然の一部」に回帰する旅の事で、自然との一体感をとても大事にしています。
それには理論で知るというより、五感をひらき、自然のものに触ったり、香りを嗅いだり、身体感覚を通して自然を感じることが必要です。
ネイチャーゲームの一つに、〈わたしの木〉というアクティビティがあります。
森の中(公園など身近な木でもOK)から、自分の木を探して、こんな流れで実践します。
〈わたしの木〉
(1)パートナーに紹介したい木を選ぶ
(2)紹介したい木があることを伝える
(3)バンダナなどで目かくしをしたパートナーをその木のところに連れていく
(4)触覚・嗅覚・聴覚を使うように、その木を紹介する
(5)十分のその木を感じてもらったら、目かくしたままもとの場所に戻る
(6)目かくしをとって、その木を探しに行ってもらう
(7)再開できたら、もう一度触ったり匂いをかいだりする
(8)感じたことをシェアする
私は、この「木を実際に触って、手触りや大きさ、香りなどを感じる」ときに、自然との一体感を感じます。
まるで木と一緒に呼吸をしているように、木のリズムと一緒になることがあるのです。
この感覚は、リトリートで最も大切にしたい感覚「自然との一体感」そのものです。木だけでなく、自分自身も自然の一部であることを、思い出させてくれる時間です。
私はこの視点を、どの自然物にも向けています。
例えば、リトリート中のゲストさんを、マインドフルネス(瞑想)をするためにお連れする場所があります。
そこは、山の尾根にあり、岩場になっていてとても気持ちが良い場所です。ガイドブックにも載っておらず、誰も来ない静かな場所です。
この岩を、私は独自に「マインドフルネスの岩」と名付けました。
もちろん、正式名称ではなく、わたしの木ならぬ「わたしの岩」で、私が勝手にそう呼んでいる「かけがえのない一つの岩」です。
〈わたしの木〉のように目隠しをしたりすることはありませんが、いろんなゲストさんを、ここにお招きしています。
私にとっても、ゲストさんにとっても、自然と一つになれるとっておきの場所、それが「マインドフルネスの岩」なのです。
以前に、友人の会社経営者さんを連れて、この「わたしの岩」にお連れしました。近くのコンビニで、おにぎりやお茶を買い込み、ここで日暮れまで過ごしました。
マインドフルネスの岩なのに、みんなおしゃべりに夢中で、誰もマインドフルネスしていない(笑)。でも、皆さんとってもリフレッシュしていました。
会社を立ち上げて10年目の経営者さんは、なんと「こんなにゆっくり出来たのは10年振りだと思う」
ようやく立ち止まれる(自然のままの自分に戻れる)時間を持てたのですね。
もう1人の社長さんは、健康を損ねていたようで「もう少し早く、豊島さんに出会えていたら良かった」と。
私が「普段の生活で、いちばん落ち着ける時間はどんな時ですか?」と聞くと、「病院でMRIの検査を受けている時です、その時が強制的に立ち止まれるので」と!!
どうしても「社会の一部」で在り続けると、「自然の一部」に戻れる機会が乏しいようです。
皆さまも、社会の一部でいる限り、なかなか立ち止まって自然のリズムに還る時間を持つのは難しいかも知れません。
しかし、こうして「わたしの木ならぬ、わたしの岩」など、身近な自然物を見つけては、自分のリズムを取り戻せる「とっておきの場所」にしてみませんか?
別に山奥でなくても、近くの公園でも「わたしの岩」や「わたしの○○」がきっとあるはずです。
ご自身を自然のリズムに戻してくれる場所や自然の仲間たちに、名前を付けてみましょう。
きっと、あなただけのかけがえのない、自然のリズムに戻れる場所になるはずです。
(2025.11.13記事作成)
千葉県在住のネイチャーセラピスト
鹿野山自然学校校長
リトリートのプロデューサーとして、全国のリトリート施設の開発に携わる。2024年12月に出版したリトリートのガイド本「リトリート休養術」はAmazon kindleで2部門でベストセラー1位。(2025.4.9〜4.10)





