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特集:なんで?どーして?がとまらない動物園(SNL 48号/2026年7月号)
高い木に張られたロープを行き来するクロクモザル。その姿を見上げる親子。ガラス窓に跳びかかるライオンの迫力に「キャー!」と興奮する子どもたち。熊本市動植物園は、のびのびと過ごす動物たちの姿を間近で見られるのはもちろん、〝なんで?〟が湧いてくる仕掛けがいっぱいです。
2016年4月の熊本地震から10年。被災した園の復旧に携わり、現在は園長を務める松本充史さんに、復興までの園の道のりと、これから目指す姿をうかがいました。
地震後、ぐるぐる歩きまわるアフリカゾウ。水中から出てこないカバ

熊本市動植物園園長・獣医師

松本充史

熊本市出身。鹿児島大学農学部獣医学科卒業後、獣医師として熊本市役所入庁。熊本市動物愛護センター勤務などを経て2010年4月、熊本市動植物園に配属。2025年4月、園長に就任。熊本地震の被災経験から、公益社団法人日本動物園水族館協会の安全対策委員長も務める。2025年にネイチャーゲームリーダー資格を取得。

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IMG_0854.jpegいまにも動き出しそうな動物たちのイラスト

懐かしさを感じさせる少し古びた入口ゲートを抜けると、正面玄関が現れ、熊本市出身のアーティスト、コーダ・ヨーコさんが描いた愛らしい動物たちが出迎えてくれる熊本市動植物園。動物たちをじっと観察したり、遊具を楽しんだり、植物園エリアをのんびり散策したり。休日の園は家族連れカップル、子どもたちでにぎわいに満ちています。

しかし熊本地震が起きた2016年、風景はまったく別のものでした。

大きな揺れのあともやたらと揺れて、しゃがみ込まないと立っていられないほどでした


震度7を記録した最初の地震を松本充史さんはそうふりかえります。揺れが起こったのは4月14日午後9時半ごろ。

私はたまたま未熟な状態で生まれたミミナガヤギの赤ちゃんをケアするために、園に残っていました。ほとんどの職員は帰宅していたんですが、心配して続々と集まってきて、手分けして動物たちの安否と脱走していないかを確認しました


動物たちは無事でしたが、余震が続くため、集まった職員は翌朝まで園に留まりました。

翌日、地盤沈下や液状化、断水が判明。水の確保のめどがついたものの、翌未明に再び震度7の本震が襲います。前震ではまだ開園の可能性がある状態でしたが、本震で開園はしばらく無理だと感じたそうです。


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地割れなどの被害があったネコ科動物エリア



給水管が壊滅し、職員はポリタンクで水を運んだり、水の通っていたポンプから消防ホースを何百メートルもつないで、動物エリアに水を引いたりしました。余震のたびにぐるぐると歩き回るアフリカゾウ。水中から出てこないカバ。オナガザル科のアンゴラコロブスは1週間もの間、一度も食べ物を口にしませんでした。動物たちにもストレスによる心配な様子が現れます。

発災後2週間は10人程度の職員が交代で寝泊まりし、動物を見守りました。さらに市の職員として避難所業務などへの動員もありました。

災害直後は協力して、どうにか乗り切らなくてはと、それはもう本当に必死でした
子どもたちの〝なんで?〟が復興の決定打に

動物たちの体調が安定してきたころ、職員の間に少しずつ、疲れや先行きが見えないことへの不安が広がりはじめます。

全国から届く支援物資や応援の手紙に、頑張らないかんと思いながらも、誰もいない動物園で働き続けると、『なんのために仕事をやってるんだろう……』とモチベーションが下がってきたんです


そんな折、避難所の小学校で支援にあたっていた松本さんは、学校の再開を喜ぶ校長先生とつながり、子どもたちに動物を見せることができないかと声をかけられます。

職員の間でも移動動物園の案が出ていたので、当時の園長や上層部に話を通しました


地震から約1ヶ月半後、小学校での移動動物園が実現。それが職員の心を大きく動かしたのです。

私たちは当初『子どもたちの心を癒す』というテーマを掲げていたんです。でも動物で子どもたちを癒してあげようということ自体が、大人の思い込みでした。子どもたちはモルモットのフワフワした毛の温もりやヤギの角のかたさに触れ、好奇心いっぱいで〝なんで?〟ばっかり! 目を輝かせて質問してくる子どもたちの表情を見て、これに応えることが私たちのやるべき動物園の役割だと気づかされました


そしてこの〝なんで?〟こそ生きる原動力であり、〝心の復興〟ではないかとも松本さんは続けます。

子どもたちは地震で大人以上に怖い体験をしたと思うんです。けれども『怖かった』なんてひと言も出てこない。心の中を探っていけば被災した傷があるんでしょうが、それ以上に興味や好奇心が勝って上書きされている。動物のことでも他のことでもいい、いろんな興味で自分がおもしろいと思うことを探し続けていけば、この子たちは傷を負いながらも前に進めるのかなって。これが〝心の復興〟かなと思ったんです

再開園に向けて見えたやるべきこと

移動動物園を機に、動物を展示するだけの施設ではいけないと職員一人ひとりが気づき、再開園に向けて何ができるか考えはじめたと松本さんは言います。

『動物がどんなところに住んでいるのか』『なぜ絶滅しそうなのか』『自分たちに何ができるのか』といったことを子どもたちが自分で見つけられるようにしたい。教え込むのではなく、自然と〝なんで?〟が生まれる仕掛けをどれだけ園に置くか。そのためにこういう話をしよう、こういったことを伝えようと、みんなで準備を進めました


園内には動物たちの名前や個性、種としての特徴や生態、本来暮らす環境など、さまざまな情報が描かれた手作りの看板があちこちに。そこで何を伝えるか、再開園から試行錯誤しながら進化し続けています。


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そして、園で出会える113種すべての動物の特徴をわかりやすく、魅力的に伝えるコーダ・ヨーコさんのイラスト看板も目を引きます。

松本さんは以前の職場だった動物愛護センターで、動物愛護推進員としてボランティア中のコーダ・ヨーコさんと一緒に活動していました。

コーダさんには当時、迷子札のイラストを作っていただいたんです。生きものの命を大切に思う気持ちが強いことと、イラストのテイストを知っていたので、全面再開園にあたって、看板のイラストをぜひコーダさんに、とお願いしました



P1020410.JPG地震で閉園中の動物園に何度も足を運び、動物たちを観察したというコーダ・ヨーコさん。
飼育員さんも納得する動物の姿が描けているかにこだわったそう。
その後、熊本地震を動物たちの視点で描いた絵本『どうぶつたちもこわかった』を創り上げました。


地震から2年8ヶ月を経た2018年12月、興味や好奇心が湧く学びの場、憩いの場として全面開園を迎えます。

地震から復旧まで困難もあったけれど、多くの支援・応援を受け、自分たちがやるべきことが見えてきた。今はプラスとして心に残っています


当時を知る飼育員さんたちと一緒に、松本さんがしみじみと話してくれました。

ネイチャーゲームで感性が開き〝なんで?〟があふれだす

IMG_0856.jpeg松本さんが近づくと、 甘えるように顔を近づけるマサイキリン。


地震後もコロナ禍で休園しましたが、動画配信などで〝なんで?〟につながる動物たちの姿や学びを届け続けました。松本さんは副園長、園長と立場が変わっても、動植物園を訪れた子どもたちが〝なんで?〟に出会うためにできることがもっとあるのではないかと探し続けてきたと言います。

そこでめぐり合ったのが「ネイチャーゲーム」です。

〝自然が好き〟で世界を変える』というキャッチフレーズに魅かれ、思い切ってリーダー養成講座に申し込みました。全然知らない人たちの中に男性は私ひとり。えらく歓迎してもらいましたよ(笑)


講座では、感性が開くのを強く感じ、翌日から景色の見え方が変わったと松本さん。園内を歩くと細部に目が向き、視点が広がったそう。さらに同じアクティビティでも、そのときの自然の状態や、それぞれの感じ方が毎回違い、「主語が〝私〟になる」プログラムがたくさんあることにも心をつかまれたと語ります。

ガイドや解説はどうしても答えが決まっていて限界があります。とはいえ、それで伝わることもあると思っているので、おもしろさを感じてもらえる話をしています。
一方でネイチャーゲームは何に感動して、何に〝なんで?〟を感じるのかという感性を育んでくれると思うんです。来園者が動物や植物、自然を感じる機会を増やし、自然の素晴らしさを見つけて、『もっと知りたい、もっと感じたい』と思ってほしい。
ネイチャーゲームを実体験したからこそ、動植物園で熊本のシェアリングネイチャーの仲間と一緒に、そんな場づくりをしたいと強く思っています



コラム:ハズバンダリートレーニングって知ってる?

採血や診察、体重測定、爪切りなどのケアに、動物自ら協力できるように支援するハズバンダリートレーニング。動物に苦痛やストレスを与えないよう配慮する動物福祉の視点から、熊本市動植物園をはじめ多くの動物園で取り入れられています。

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松本さんによると、アフリカゾウのエリはハズバンダリートレーニングを終えて運動場に向かうとき、必ず左足から出るのだそう!他にも2頭の個性、関係性を楽しそうに話してくれました。

幼少期の自然体験が蘇るワクワク・ドキドキする気持ち

動植物園のあり方にかける松本さんの熱い想いは、開園100周年を迎える2029年、そしてその先の未来へ向けられています。

現在、キリンやシマウマといった草食動物を展示し、深い堀で隔ててライオンも見ることができる『サバンナエリア』を建設中です。実際のサバンナとは違いますが、『地球上にはこんな世界があるんだ』とか『キリンやシマウマ、ライオンは本来こういうところに住んでるんだ』と想像を広げてもらえる。
野生では食う・食われるの関係でも、全てが食べられているわけではない。どう共存しているのか、展示を見て考えてもらい、伝えるツールが増える喜びはとても大きいですね


P1020252.JPGサバンナエリアの予定地



さらに話題はネイチャーポジティブの転換点である2030年へと及びます。

2030年までに自然環境や生物多様性の損失を食い止め、回復する方向に進もうという考え方です。動植物園はこの年を見据えて、『自然と共に生きる社会を形にしていく』と発信し、実現のために多様な人たちと協働するプラットフォームになりたいと考えています


P1020397」.JPG園内のいたる所に問いかけの仕掛けがいっぱい!



こうした園の想いに共感してくれる企業は、確実に増えているそう。

企業や地域に一緒にやりませんか?とメールを送りまくってます(笑)。賛同や資金提供の返信がうれしくて、苦にならないんですよ。今後、企業は資金を出すだけではなく、自然に対する感性を磨くことも求められると思うんです。ネイャーゲームを研修に取り入れれば、自然に触れて心が動く人材が出てくる。自然の素晴らしさに気づく人が増えれば世界は変わる。そう信じています


取材の合間をぬって、昼食の時間を削り、企業との打ち合わせにあてる松本さん。忙しいはずなのに、嬉々として見えました。

動物の気持ちに思いを馳せるにはどうすればよいか、という問いには、

動物のおもしろさは〝生きるために生きている〟ところ。生き残るための能力や進化の過程を知ると、そこに尊厳の念が生まれ、人間とは異なる強みをもつ地球上の仲間として見えてくるのでは?


というヒントも教えてくれました。

これまでの「かわいいな」「ユニークだな」で留まっていた動物へのまなざしを少し恥ずかしく思うと同時に、長く眠っていた〝なんで?〟を呼び覚ますために、まずは身近な生きものをじっくり見てみよう——そんなことを思いながら、久しぶりの動物園をあとにしました。


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.48 特集(取材・文:茂木奈穂子 編集:新名直子・藤田航平・豊国光菜子、校條真)をウェブ用に再構成しました。
※冊子版の送付が可能です。「ネイチャーゲーム普及ツールの取り寄せ」をご覧いただき、お気軽にお知らせください。
(情報誌バックナンバーにつきましては在庫切れの場合がございます。ご了承ください。ウェブ版はこちらからダウンロード可能です。各号目次下部の<※PDFデータを開く>よりご覧ください。)



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