TOP

子育て
特集:Nature Game No.28〈宝さがし〉..."ドーパミン"大放出!脳には好奇心だ!(SNL2020年3月発行)
自然のなかで五感と体を使うネイチャーゲームは、「脳の発達とアンチエイジング」にいい影響がある、と脳科学者の瀧靖之さんは言います。
ネイチャーゲーム〈宝さがし〉をしているとき、脳ではどんなことが起こっているのでしょうか。脳を活性化するのに、さらに効果的な〈宝さがし〉の楽しみ方もうかがいました。
脳の全体をつかってる?! ネイチャーゲーム〈宝さがし〉
東北大学加齢医学研究所
瀧 靖之(たき やすゆき)さん

医師・医学博士。脳MRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを研究する。『生涯学習脳』(ソレイユ出版)『アウトドア育脳』(山と溪谷社)などの著書のほか、「あさイチ」(NHK)などのテレビ出演も多数。美術や音楽にも造詣が深く、趣味のスキーはSAJ1級の腕前。
SNL28image05.png



〈宝さがし〉で脳、悦ぶ!



森や公園でふと落ち葉が目に止まり拾ってみると、その葉の色の美しさや葉脈の繊細さに心を奪われてしまう...皆さんにも経験があるのではないでしょうか。このような何気ない自然の落とし物を〝宝もの〟に見立て探してくるのが、ネイチャーゲーム〈宝さがし〉。この活動でつかう「宝ものリスト」「トゲトゲのもの」「においのするもの」「おとのするもの」など、見つける過程で五感を使うように配慮されています。宝ものリストを手にした子どもたちは、すべての宝を見つけ出そうと張り切って自然探索へ。じーっと見つめたり、匂いに顔をしかめたり...。じつに生き生きとした表情を見せます。このとき、子どもの脳内では何が起こっているのでしょうか。



五感を使った自然体験が脳の発達にもたらす効果について書かれた『アウトドア育脳』(山と溪谷社)の著者、瀧靖之さんにうかがいました。



脳の発達には、脳の領域によって段階があります。子どもの脳は、後部(視覚、聴覚など)から前部(倫理的思考能力)に向かって発達が進みます。その発達段階で必要なのが、『好奇心』『体を動かすこと』『コミュニケーション』の3つ。ネイチャーゲームは、そのすべてを同時に満たすことができる活動です。脳科学的にみても、脳の発達によい影響をもたらすことが証明されています

そして、〈宝さがし〉のように、なにかに注意関心をもって行う探索活動は、無意識に自然のなかを歩くよりも、脳のいろいろな領域を使っている、と瀧さんは言います。



ものを見るのは、後頭葉。音を聞いたり、色や形を判断するのは側頭葉、体を動かすのは頭頂葉、他者とコミュニケーションしたり、考えたりするのは前頭葉を主に使います。このように、これら脳の領域をすべて使っているのが、〈宝さがし〉。バランスよく脳が活性化している状態と言えます

〈宝さがし〉では、最後に参加者同士で見つけたものをシェアして、一人ひとりが拾ってきた宝ものを認めわかちあう時間を大切にしています。



一人ひとりを認め、分かち合うという行為は、自己肯定感を高めることにつながりますね。この自己肯定感は、人生を豊かに生きるために大切な要素です
好奇心とシナプスのGOODな関係

「脳が発達する、活性化する」と言いますが、脳の中ではそのときどんなことが起こっているのでしょうか。



自然のなかでの活動は、視覚、聴覚、触覚など複数の五感を同時に刺激します。脳内の神経細胞と神経細胞のつなぎ目、信号の受け渡し場所を「シナプス」と呼びますが、脳が五感からの刺激を受けると、そのシナプスから、ドーパミンなどの神経伝達物質を放出させます。さまざまな五感刺激を受けるほど、神経伝達物質の放出は活性化し、シナプスが増えていきます。つまり、五感刺激によって、神経細胞間のネットワークを増やすことで脳の発達を促すのです。



脳内伝達物質には、さまざまな種類と役割がありますが、そのひとつドーパミンは、楽しい、心地よい、うれしいといった感情を脳がキャッチしたときに放出される物質。ドーパミンは、一般に快楽物質のイメージが強いですが、やる気、学習、探求心など認知機能全般、また運動機能とも密接に関与しています。



ですから、人が勉強でも遊びでも習い事でも、何かをするときに〝楽しい〟と思えることが、年齢問わず大切なのです



さらに、脳の神経細胞間のネットワークを増やしていくことに大きく影響しているのが「好奇心」です。好奇心をもった状態の脳は、モチベーションと記憶に関する脳領域の活性化を高めるという研究がアメリカの神経科学者らによって発表されています。好奇心が、神経細胞ネットワークのつながりを強化するのです。



SNL28image03.png

〈宝さがし〉で脳内が若返り!

脳の加齢はその神経細胞間をつなぐネットワークが失われていく状態。一方で脳は、可塑性(かそせい)といって外からの刺激によって機能・構造が変化する性質を持っています。脳は何歳になっても、変化・成長する能力があり、加齢で失われたネットワークも増やすことができるそうです。



好奇心をもって好きなことを見つけ、楽しく取り組むこと。いろいろな人とその楽しさを共有することが健康寿命をのばすことにつながります。認知症が進んだ高齢者は、考えたり判断したりする認知力は落ちていても、楽しい、気持ちいいという感情と五感は最後まで残ります。だからこそ、子ども、大人、高齢者、すべての人にネイチャーゲームのような自然体験をおすすめしたいですね
さらに脳を活性化!深ぼり〈宝さがし〉のススメ

それでは、人生を豊かにするための知的好奇心をのばすには、何が必要か。瀧さんは次のように話します。



私が大事だと思うことは2つあります。まず、子どもがなにかに興味をもったら、リアルな世界を体験させること。たとえば、本で魚や昆虫に興味をもったら、釣りに行ったり、昆虫探しに出かけたりして、現実の世界に存在していることを教える。バーチャルな世界とリアルな世界を結びつけることを繰り返すことで、世界がどんどん広がっていきます。多様なものが存在する自然界は、知的好奇心をのばすのに最適なんですね。

2つ目は、大人が楽しんでいる姿を見せること。人の能力の獲得はすべて模倣から始まります。親や周りの大人が熱中すれば、子どももはまっていく。自然体験をさせたいと子どもを連れてきたけど、親がスマホをいじってばかりいたら、子どもの、楽しい・おもしろいと感じる気持ちも半減しますよね



瀧さんは、さらに脳を活性化するのに効果的で、知的好奇心を広げるネイチャーゲーム〈宝さがし〉の楽しみ方として、



各テーマを“深ぼる”ことをおおすすめしたいです

と言います。



子どもは、大人が思う以上に無限の好奇心をもっています。子どもだから難しい話をすると退屈してしまうだろうと、表面的な内容でとどめると、かえってあきてしまうのが早いと思います。たとえば鳥の羽根を見つけたとします。ただ鳥の羽だね、で終わらせるのではなく、深ぼって名前を図鑑で調べてみたり、その生態を調べてみたりする。さらに周辺の環境や植生などにも興味が広がるかもしれません。きっかけはリーダーや大人が与えてもいいと思いますが、何かに気づき、夢中になると子どもは大人が背中を押さなくてもどんどん自分で探求していきます。それこそが深い学びとなり、またやりたい、もっとやってみたい、という持続性の高い活動につながるでしょう

そして、「感覚」と「知識」を結び付けることで、五感もより研ぎ澄ますようになると瀧さんは言います。



「もっと知りたい!」が人生を変える力になる

3歳の頃からの好奇心がいまも続いているーーー



SNL28image04.png蝶標本の作成や収集も趣味のひとつ。自宅には何十箱も標本があるが、瀧さんの蝶への好奇心はいまだとどまることがない。



北海道・旭川で幼少期を過ごした瀧さん。その当時抱いた好奇心は、歳を重ねてもどんどん広がっていると話します。



私は昆虫が大好きなので、野山に入るのも大好きです。生きものってものすごく美しい。自然の神秘を感じます。昆虫を見つけるとすぐさま図鑑で調べます。図鑑丸ごと一冊が頭に入っていましたね。今も、旭川にいた3、4歳のころと同じ感覚をずっと持っています。先日、ずっと憧れていた沖縄の西表島に行ってきたんですが、冬の時期、日本で唯一この地域だけに蝶が飛んでいて......。もう天国でした(笑)

心が満たされると、仕事にもよい効果があるという瀧さん。専門である脳科学の分野にとどまらず、企業とも連携して研究や新事業の創出に取り組んでいます。



経済をはじめ、異分野のことを学ぶのも楽しくてしかたがありません。もっともっと知りたくて夢中になっていきます

と話す顔は、昆虫探しに夢中になって目を輝かせる少年のころと同じなのでは、と感じました。



一方で、幼少期に自然体験を重ねても、子どもが思春期になると、自然から離れてしまってがっかりしたという親御さんからの声もよく聞きます。



そうですね。あんなに自然のなかで遊ぶのが好きだったのに、今は電子ゲームばかりという声も聞きますね。でも、それも自然なことと私は受け止めています。脳の領域のひとつ、記憶をつかさどる『海馬(かいば)』と感情をつかさどる『偏桃体(へんとうたい)』は隣同士で密接なネットワークがあるんです。つまり、感情と記憶はつながりが強い子どものころに自然のなかで感動したり、わくわくしたりといった原体験があると、大人になってからもたくさんの情報のなかから、「これをやりたい」という脳内のアンテナが立ちやすいはずです。ですから三日坊主でもいい。たくさんの経験をすることで、大人になったときに記憶と感情がつながって、もう一度やってみようと思う心理的ハードルを下げてくれます。電子ゲームも、子どもはいっときは夢中になるものです。それもよしとしましょう。ただ、できれば電子ゲームに出会う前に、リアルな自然体験をたっぷりさせることをおすすめしています。その原体験があれば、いつか、バーチャルな世界だけで完結してしまう電子ゲームが、あほらしくなる時が来ると思いますよ(笑)

これは、研究結果から導き出した理論上だけではなく、実体験としても言えるのですが......と続ける瀧さん。



子どもの知的好奇心をのばすと、生涯にわたって幸せを感じられる。子どもだけではなく大人も幸福度を高め、認知症予防にもつながり健康寿命ものばすことができる。ネイチャーゲームのような自然体験は、脳の発達によいというだけではない。人生を変えていく力になると思っています

「感じる」と「リアルな知識」を行ったり来たりすることで、楽しみをさらに広げるネイチャーゲーム〈宝さがし〉。その経験が、人生を豊かに生きる力になる。そんな脳トレ、自然のなかで始めてみませんか。


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.28 特集(デザイン:花平和子 取材・文:大武美緒子 編集:山田久美子、佐々木香織、水信亜衣)をウェブ用に再構成しました。
※冊子版の送付が可能です。「ネイチャーゲーム普及ツールの取り寄せ」をご覧いただき、お気軽にお知らせください。
(情報誌バックナンバーにつきましては在庫切れの場合がございます。ご了承ください。▶︎ウェブ版はこちらからダウンロード可能です。各号目次下部の<※PDFデータを開く>よりご覧ください。)

LINE.pngのサムネイル画像