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特集:Nature Game No.013〈ミクロハイク〉...「じ〜っと観るおもしろさ」(SNL2019年3月発行)
腹ばいになって、虫眼鏡で草むらをのぞいてみると...いつも目にしているアリが「巨大な怪獣」に大変身!体にはたくさんの毛があり、ものすごく忙しそうに動いていたり、感情があるかと思うようなしぐさをしたり...立って見下ろしていた世界が“目の前1センチ”に縮んできたらきっと自分とアリの“心の距離”も縮まっているはずです。
ほら、足元にジュラシックパーク
あつぎ郷土博物館・学芸員
槐 真史 (えんじゅ まさし)さん

『あつぎ郷土博物館』の学芸員として、地域の自然史に関する調査研究、教育普及に従事する傍ら、神奈川県南西部に位置する中井町生物多様性基礎調査などにも参加し、地域の生物多様性保全にも取り組んでいる。
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草むらに這いつくばって、虫たちの世界をのぞき見る《ミクロハイク》。そのおもしろさは、なんといっても普段見逃している小さな虫や植物をじっくりと観察することによって見えてくる、新たな〝発見〟と〝驚き〟の数かずです。



それは、「拡大して」はじめて見える造形であり、視点の変化で変わる世界観。そしてもうひとつ、「注視して見るおもしろさ」ではないかというのが、『あつぎ郷土博物館』の学芸員、槐真史さんです。『日本の昆虫1400』(文一総合出版)の編著者でもある槐氏ですが、子どものころからはまっていたのは民俗学。そのためか、昆虫を見る視点がどこか人間観察のようで、お話を聞くうちに昆虫と自分がシンクロし、虫への親近感がふつふつと湧いてきます。



Nature Game No.013 ミクロハイク



虫眼鏡と糸を使って、足元に広がるミクロの世界を探検するネイチャーゲームです。公園や空き地の草むらに1メートルほどの糸を張り、腹ばいになって虫眼鏡で糸の端に焦点を合わせます。そのままゆっくりと糸をたどり、周りの風景を虫眼鏡で観ながら進みます。草の表面や、小さな生きもののしぐさ・形などをじっくりと観察しましょう。すると、見慣れた足元の草むらが命あふれるジェラシックパークさながらの『昆虫の世界』に豹変し、“地表の大冒険”がはじまります



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てくてく、ぼーっ...バッタ本来の〝しぐさ〟発見
日本で見られる昆虫は、大きくても20センチほど。多くは1センチ以下ですが、拡大してみると、意外と毛深くて、細かいとげがあったり...。まずは形や色がおもしろい。形のおもしろさでいったら、身近で見られるものでは甲虫の仲間が一番だと思います。でも、見ていて飽きないのは、バッタの仲間です

動きがスローモーなカブトムシなどの甲虫に対し、バッタの仲間は多様な動きをし、〝仕草〟がどこか人間的で親しみがわくというのです。



バッタは『飛ぶ』『すぐに逃げる』とう印象があると思うんですが、じつは飛ぶと疲れるので、できれば飛びたくないと思っているはずなんです。なので、脅おびやかさないようにそっと近づくと、けっこう寄って見られます。普段はてくてく歩いていたり、立ち止まったり、5分間観察していても移動範囲は3メートル四方ぐらいです

その間に、前足をつかって顔や大きな後足の掃除をしたり、バリバリと音を立てて草を食べたり、糞をしたり...。



草を食べているときに、お尻から黒いものをぶにゅっと出すと、後ろ足でびゅんと飛ばす。これが糞です。ところがなかにはぼろぼろと糞を地面に落としたままにしているのもいる。同じ種なのに、ズボラなヤツと几帳面なヤツ。これは人間と同じ、個性なんですよね

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オスとメスが鳴き交わすバッタの「音」と「腹の耳」

鳴く虫といえば、コオロギやキリギリス...。そして、「あまり知られていませんが、身近な大きいバッタの多くが鳴きます。ただし、音がとても小さい種がほとんどなので注意深く聞かないと聞こえません」と槐さん。



しかも、メスへのアピールなどのため〝オスしか鳴かない〟のが一般的な虫のなか、バッタはメスも鳴くのだそう。体の小さいオスが鳴くと、体が大きいメスが反応して鳴き、鳴き交わしながらだんだんと近づいてくる。そして気に入れば、オスがメスの上に乗って交尾をする。ただし、成功しているのを見ることはあまりなく、槐さんいわく「たいていはメスに振られてしまう」そうです。



メスの声色が途中で変わるんですよ。『あっち行って』みたいな...ね(笑)

眼鏡に叶ったオスに出会い、交尾を終えたメスは、地面に穴を掘って卵を産み付けます。そして、後ろ足で土を掛けて穴を隠すというのです。春、穴からは親と同じ形をした米粒大の赤ちゃんバッタが次つぎと出てきます。彼らは、夏までに脱皮を5〜6回繰り返し、成虫になって、求愛行動を始めます。



「鳴き交わすんだから、耳(聴く機関)はあるはずだよね」といって、自然観察会では子どもたちにバッタの耳を探してもらうという槐さん。ところが人間であば耳があるはずの目の横はツルツルで穴らしきものはありません。バッタの仲間はお腹(後ろ足の付け根)に大きな穴があり、ここで音を聴いています。



参加者がデカイ穴に見入っているときに、子どもたちがびっくりするぐらいの大声を出してみるんです。でもバッタは驚いて逃げることなく、じっとしている。これは聞こえている音(音域)が異なるからですよね。そんな話もバッタの観察でできるんです

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バッタと「追いかけっこ」

聞けば聞くほど魅惑的なバッタの観察ですが、やはり屋外で見つけると、多くの場合は、太くて大きい後ろ足で地面を蹴り上げ、逃げて行ってしまいます。



バッタが飛んで逃げるとき、たしかに最初は10メートル近く飛びます。ただ、次は半分ぐらいの距離しか飛べない。次はもっと短く、数回続けると10センチぐらいしか飛ばなくなります。そうなれば見放題(笑)。コツは飛んで行ったバッタの着地点をしっかり見て、同じバッタをしっかり追いかけることです

この「追いかけっこ」で、トノサマバッタ以外は、捕獲できるそう。そうして捕まえたバッタは指に温かく、「ドクドクしているのが感じられる」と槐さん。



そうだよね。(追いかけっこしたら、心臓が)ドクドクするよね。自分と同じだ...と、子どもたちが思えるんですよ

ちなみに、バッタは飛ぶのは上手いが、着地は下手。着地で転んだり、でんぐり返しをしてしまうのも〝愛嬌〟です.



槐さんが子どもたちの生物観察にバッタが適していると思うのには、いくつかの理由があります。



まずは、「どこでも見られる」点です。本州以南であれば身近な公園や空き地でたいていは見つけられ、なかには河原や砂浜にいる種もあります。見られる時期も長く、関東の沿岸部なら、春先から日当たりのいい場所を探せば年を越した1月中旬まで見つけられるそう。



次に「種として識別しやすい」点。よく見られる種は10種以内で、草丈によって棲み分けをしているそうです。そして「自分(子どもたち)とシンクロしやすい」、「捕まえても簡単に弱らない」という利点もあります。



識別が難しく種の特定ができないのと、小さな子どもが捕まえると殺してしまうことがあるのが難点ですが、動きの面白さとしては「アリ」もお勧めだといいます。

「死ぬまで飼い続ける」覚悟はあるか
じっくり観察していると愛着が湧いて『バッタを持ち帰って、家で飼いたい』という子がでてきます。そのときは『毎日世話をして、死ぬまで飼えるか』と聞くんです。飼えなくなったから自然に還そうと、捕獲した場所とは異なる〝家の近く〟で放すのは絶対にダメです。同じ種がいる場所でも、生態系になんらかの影響を与える可能性があります

バッタの飼い方は「比較的簡単」だと槐さんはいいます。透明のタッパーに、餌となるイネ科の植物の葉などを入れて、1日3回(体が柔らかい脱皮直後1日は除く)タッパーの結露を拭いて糞の掃除をするだけだそう。ただし、この掃除を怠ると、体にカビが生えたり病気になって死んでしまいます。



成虫を捕まえても、長ければ3〜4か月は飼えるそうです。イネ科の草はどこにでも生えていますし、バッタも捕まえればただなので、費用は掛かりません。必要なのはタッパーと〝飼う覚悟〟だけ。



この話をするとたいていの親御さんは家で飼うことに反対します。でも、本当は昆虫を飼って〝死ぬまで飼う覚悟〟を身につけておけば、将来ペットを捨てることはなくなると思います。沖縄で野良猫や野犬が増え、ヤンバルクイナを食べて絶滅に追い込むようなことも...。バッタの飼育は、道徳教育なんですよ

「飼う覚悟」ができない場合、バッタは捕獲した場所で放さなくてはなりません。子どもが抵抗なく自然に返す方法でお勧めなのが『バッタのオリンピック』。



「誰が捕まえたバッタが一番遠くまで飛べるか」を予想し、いっせいに放してみます。大きなものが遠くに飛べるとは限らない事実は、重量の問題を気づかせる機会にもできます。



博物館に勤めて30年という槐さん。「人と生きものが仲良くすることを助けるのが、博物館のひとつの役割」だと考え、「生きものとの良好な付き合い方」を伝えたいのだといいます。そして「人と生きものが近くなれば、あの生きものがいる林は残しておきたいよね...ときっとなる」と。



ミクロで見るおもしろさ...それは注視したものの細部のきらめきや、しぐさ、営みから、ひとつひとつの生命の愛おしさを実感する体験なのかもしれません。〈ミクロハイク〉で得られる一つ一つの発見や驚きで、ほんの少し自然の見方が変わったら、近所の見慣れた草むらが、きっと〝すごい奴らが住んでいる場所〟に変わる。「注視して見る」ことで初めて知ることができる世界があるのです。



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お腹にある大きな孔(耳)、足のトゲトゲ、穂先のような触覚...。

「ミクロに見る」と、虫たちのからだは驚きの連続!


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.24 特集(デザイン:花平和子 編集:伊東久枝、佐々木香織、水信亜衣)をウェブ用に再構成しました。
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