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小中学生の自然体験
海を活かした学びのSTEAM化に向けて(SNL45号/2025年7月号)
「社会課題解決」を糸口に、「自然が好き」になる。
静岡県の取り組みを通して、海をテーマにしたSTEAM型の学びの可能性を探ります。
近くて遠くなってしまった海

日本財団が実施した「海と日本人に関する意識調査2024」の結果によれば、海が好きな人が年々減っているそうです。

それだけではありません。海洋問題の認知度や海を守る行動をした人の割合も低くなっているというのです。何をしたらよいかわからない、自分の生活と海のつながりを感じないのが理由とのこと。自分とのつながりがわからなければ、海のことを知りたいとは思いにくいものです。また意外なことも明らかになりました。最も海への関心が高い世代は高校生であり、最も海へ行きたいと思っているのが小学生らしいのです。いわゆるデジタルネイティブ世代の関心が一番高い。しかも、関心のある海に関わりのあるプロジェクトとして、海上風力発電や無人運行船なども挙げられていました。発電や船舶といったT(テクノロジー)への関心が高いのも特徴的ですね。

海洋教育にも、社会課題の解決をスタートにして自然を知り、好きになる、というSTEAM的な学びの可能性が生まれています。そこで今回は、わたしが暮らす静岡県を舞台とした、海を活かした学びのSTEAM化を紹介します。

子どもとビーチコーミング

stm03.png袖師浦(そでしのうら)のテトラポットのすき間を観察



2021年、当時の静岡市環境局環境創造課とわたしの研究室が協働して、こども園で、先生たちのサポートを得ながら園児と一緒にビーチコーミングを行いました。

このこども園は海のほど近くにあり、海を活かした学びを続けてきました。サイエンスぽけっと(静岡科学館る・く・るのボランティアが立ち上げた団体)による駿河湾の話と海洋プラスチック問題の絵本の読み聞かせや、マイクロプラスチックを見つける実験も行いました。

また、近くの海に流れこむ庵原川(いはらがわ)の河口に興味を持ち始めた子どもがいたので、川の観察も行いました。子どもは、海と川の違いを、まずは香りから感じていました。幼児期の段階では、自然や社会課題の「気づき」を大切にしています。

食べられない 「未利用魚」を通した海の学び

SNL-stm.png熱海千魚ベースプロジェクト制作のカードゲーム



つぎは熱海市の例です。熱海の海は相模灘(さがみなだ)といわれ、日本でとれる魚の種類の実に約3~4割(1500種類)が獲れるそうです。熱海千魚ベースプロジェクトでは、お魚カードゲームなどを使って「熱海の海ってどんな海? どうしてたくさんの魚が獲れるんだろう?」をテーマとした海を活かした学びを行っています。

このプロジェクトのユニークな点は、廃棄されてしまう「未利用魚」を使った商品開発を行っているところです。この未利用魚に関わる社会課題の解決をSTEAM的な学びにすることができれば、子どもはエンジニアリングデザインプロセスにおいて魚の生態を知ったり、海洋の実態を知ったり、テクノロジーを利用したりすることができます。

しかも、子どもにとってつながりが明らかな「食」がテーマなので、今後の展開がとても楽しみです。

海洋ゴミからアクセサリーづくり!アップサイクル

最後の例は焼津中央高等学校の取り組みです。同校では、SDGsの各テーマを選択して探究活動が行われています。

その一環として外部講師を招いて、地元の石津浜海岸で大規模な海中・海浜掃除を行っています。

この活動のポイントは、海洋ゴミをただ回収するのではなく、例えば、ルアーのアップサイクルを行い、文化祭、ネットショップ、地元の魚センターなどでの販売をめざしたり、再生したルアーを箸置きやペーパーウェイト、アクセサリーとして利用したりするなど、社会との関連付けを図っていることにあります。

アップリサイクル活動の中で、ルアーの材質や融点などのS(科学)を学びたいと思う生徒がいるかもしれません。

それだけではありません。海岸で拾ったプラスチック、缶などのゴミで、なんと「令和の富嶽三十六景」という作品を制作したのです。たくさんのペットボトルキャップを使い、背景を砂嵐にすることで〝自然の崩壊・バグ〟を、富士山を赤富士にすることで、〝自然の怒り〟を表現したそうです。

プラスチックの数が魚の数を超えようとしている海の現状を示唆しているとのこと。文字通り、A(アート)から始まる学びでもあるのです。

STM02.png

焼津中央高校の生徒の力作 「令和の富嶽三十六景」

学校ver3.0と学びのSTEAM化

最近、「学校ver3.0」という言葉を聞くようになりました。これからの学びは、大学、NPO、企業などが提供するさまざまなプログラムを選択しつつ、学校は実体験や他者との対話・協働をはじめ、多様な学習活動を公正に提供する役割が重視されるようになります。その学びとしてSTEAMが強調されつつあるのです。今回ご紹介した海を活かした学びは各機関・団体の強みを活かして展開されています。

さて、わたしは静岡県に住んでいますが、茨城県の海のほど近いところで生まれ育ちました。なので海は好きなのですが、どうしても少し苦手意識があります。公害問題が激しい頃に近寄らないようにいわれたせいなのか、東日本大震災を郷里の海の近くで経験してしまったせいなのか……。

同じように、自然が好きなのに苦手な子どもがいるかもしれません。もしも社会課題の解決がスタートであれば、たとえ少し苦手であっても、「好きな自然のためなら」という気持ちから学びを深めて、ひいては自然との間にある心理的な距離がなくなる子どももいるのではないかと思うのです。

子どもたちと自然体験をする時に、ものさしやはかり、スマホアプリを活用するなどして、自然体験をSTEAM化してみるのもありかもしれませんね。もちろん、デジタル端末を使うと体験活動で得られる感動が薄れる心配はいつもあります。しかし、デジタルネイティブ世代の子どもたちにとっても、自然の魅力はデジタル端末の利便性や娯楽性に勝ると確信しています。

自然に関する課題解決のプロセスの中で、プログラミングやAIといったツールを使いながら、自然とのつながりを感じて、自然とともに生きる心を育んでいきたいものです。



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郡司賀透 ぐんじよしゆき

静岡大学学術院教育学領域准教授

静岡大学STEAM教育研究所副所長

静岡市環境教育推進会議議長

ネイチャーゲームリーダー

茨城工業高等専門学校、長岡技術科学大学工学部卒業後、筑波大学大学院教育研究科修了。つくばエキスポセンター勤務。筑波大学大学院教育学研究科を経て、郡山女子大学短期大学部講師、准教授。保育者・子どもを対象にした自然活動を行う。2013年10月より現職。博士(教育学)(筑波大学)

郡司先生プロフィール写真.png



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