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保育・幼児教育
自然体験はやっぱり育ちに影響するらしい!(SNL2021年12月号)
みなさん、こんにちは。シンゴリラこと松本信吾です。
以前まで赴任していた広島大学附属幼稚園では、週に1回「森の日」を設定して、森の中を保育室として活動してきました。今回は、自然体験などの直接体験は 大事だと思っているけど、子どもの成長にどのような影響を与えるのかは示せない、と悩んでいる方への朗報をご紹介します。
子どもの頃の体験活動は、成長してから何をもたらすのか?

松本信吾

岐阜聖徳学園大学教育学部教授

1968年福岡県生まれ。保育者一筋20数年、愛称「シンゴリラ」として子どもたちに大人気の保育研究者。前任の広島大学附属幼稚園では、園を“森のようちえん”化して、森での保育を模索・実践し、現在に至る。著書身近自然かし保育実践キュラム

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つい最近、文部科学省から、子どもの体験活動に関する興味深い調査結果が発表されました。それは21世紀出生児縦断調査で回答されたデータを分析した、「青少年の体験活動の推進に関する調査研究」です。



ちなみに、「体験」とその効果の関連性を検証した調査研究は、これまでにも実施されてきましたが、今回のような規模(サンプル数2万件以上)の追跡調査を用いてその関連性を明らかにする分析は、文部科学省でも初めての取り組みで画期的なものです。



それによると、小学生の頃に自然体験、社会体験、文化的体験などの体験活動や、読書・お手伝いを多くしていた子どもはその後、高校生になったときに、自分に対して肯定的、自分に満足しているなどの「自尊感情」、自分のことを活発だと思うという「外向性」、新しいことに興味を持つ、自分の感情を調整する、将来に対して前向きなどといった「精神的な回復力」の項目の得点が高くなる傾向が見られました。



さらに、小学生の頃に、年上や年下の異年齢の友だちとよく遊んだり、自然の場所や空き地・路地などでよく遊んだりした経験のある高校生も、同様に「自尊感情」「外向性」「精神的な回復力」といった項目の得点が高かったのです。



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体験活動は単なるその時の体験にとどまらない

これらのことから、小学生の頃に行った体験活動は、長期間経過してもその後の成長に良い影響を与えていることがわかりました。体験は、単にその時体験したということに留まらず、その後の心の育ち、人間性に確実に作用していたのです。



しかもこの調査は、実際に一人一人の子どもの実態を継続して調査したものですから、単に「昔○○が好きでしたか」というような記憶に頼る調査とは違い、信頼性や説得力を持つものです。自然体験や豊かな遊びの体験が、意味や効果を持つことが証明されたといってよいでしょう。



なおこの調査では、分析を小学生の頃の経験にしていますが、それ以前の乳幼児期においては、さらに自然体験や遊びの体験が重要であることは、この時期の発達特性からも間違いないことでしょう。私たちは、自信をもって、自然体験は子どもの育ちに意味のあることだ、と言ってよいのではないでしょうか。

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体験は家庭環境も超えて作用する

また、次のような調査結果も報告されています。世帯収入の水準別に分けて体験と意識との関係を分析したところ、収入の水準が相対的に低い家庭でも、たとえば自然体験の機会に恵まれていると、家庭の経済状況等に左右されることなく、高校生の時に「自尊感情」や「外向性」、「精神的な回復力」といった項目の得点が高くなる傾向が見られたのです。



最近、「親ガチャ」という言葉が聞かれるようになりました。生まれてくる子どもは親を選ぶことができないことを指して、例えば貧困家庭に生まれてきたらあきらめるしかない、というような使われ方をします。



確かに、収入が高い家庭に生まれてくると、体験が豊かになる可能性も高いかもしれません。しかしこの調査からは、収入が低くても幼少期の自然体験が豊かであれば、自己肯定感などは育っていけることを示しています。ですから、全ての子どもたちが豊かな遊びや体験ができるよう、学校や社会がその機会や場を設けることが大切になるでしょう。



ネイチャーゲームの活動も、その一翼を担う活動であることはいうまでもありません。こうした取り組みを通じて、社会全体で、子どもたちの成長を支えていくことが求められています。



スクリーンショット 2022-05-13 9.34.24.png自然にあるものを使って造形活動。自然の多様さは表現の多様さを引き出す。

森の幼稚園の卒園生も、体力・運動能力・学力で好ましい成果が

私が携わってきた広島大学附属幼稚園の追跡調査でも、森の幼稚園の保育環境が、小学校以降の体力・運動能力・学力に好影響を及ぼしていることが明らかになっています。広島大学附属幼稚園の卒園児のうち、2016年に小学校1~6年生の172人を対象に調査しました。



新体力テストでは、森で遊んでいる幼児期には一般的な幼児との体力・運動能力の差はありませんが、小学校に進学した卒園児の体力・運動能力の成績は、「反復横跳び」や「シャトルラン」などの多く項目で、平均より高い傾向を示しています。これは、森の幼稚園の子どもたちが、森で遊ぶ中で自然と歩いたり、体幹を使ったりしていること、また体を動かすこと自体が好きになること、などが小学校以降につながっていると考えられます。



また、標準学力検査も、平均より高い数値を示しています。友定啓子さんは、森の幼稚園出身の子どもは、「意欲や集中」に優位な傾向を示し、森で培った力は「授業中での協働」に大きく発揮されているという研究結果を紹介していますが、その影響もあるのでしょう。

理屈がわかったら実践あるのみ。この冬おススメの ネイチャーゲーム!

これらの調査結果を踏まえれば、あとは実践あるのみですね。子どもたちの成長を育む「自然体験」の1つとして、ネイチャーゲームは最適です。冬場でちょっと寒いかもしれませんが、寒さに負けず、子どもたちと楽しい〝体験時間〟を過ごしてみてください。



おススメするのはしっかり身体を動かすことのできる〈コウモリとガ〉や、自然と一体化できる〈大地の窓〉のネイチャーゲームです。



スクリーンショット 2022-05-12 14.00.28.pngたっぷりの落ち葉に浸かっておふろごっこ。自然にあるものを使って遊び倒す

【引用文献】 小鴨治鈴 松本信吾他(2017) 森の幼稚園の保育環境が小学校以降の体力・運動能力および学力に及ぼす影響 広島大学 学部・附属学校共同研究機構研究紀要 45 友定啓子(2011)「森の幼稚園」の保育的意義 : 人とかかわる力を育む視点から 研究論叢. 第3部,芸術・体育・教育・心理 61,山口大学教育学部


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.35(編集:佐々木香織、校條真(風讃社))をウェブ用に再構成しました。
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