
ネイチャーゲームが果たせる役割について考えてみましょう!
ある全国調査によると、平成24年から令和4年にかけて青少年の自然体験の回数が減っていたそうです。しかも、学年が上がるにしたがって自然体験は減る傾向にあります。コロナ禍の影響もあったとは思いますが、残念なことです。
しかし、他の全国調査を見たところ、明るい話題がありました。日本の小中学生の男と95%近くが「人の役に立つ人間になりたい」と答えているのです! STEAM教育で重視されている「ものづくり」は、まさにクライアント(お客様)がいて成り立つ活動です。そこで、クライアント志向のメリットを生かすことができれば、ネイチャーゲーム×スティーム教育で、もっともっと青少年の自然体験が増える可能性が開けそうです。
そこで、今回は「ものづくり」の中でとても大切な「エンジニアリングプロセス」についてお話ししたいと思います。アメリカ化学会がミドルスクール向け(日本の小学6年生から中学2年生まで)に提案した授業プランで、ストーリー仕立てになっているのがおもしろいところです。
〈動物交差点〉生き物系アクティビティーは”ジブンゴト化”につなげやすい
この活動では、「何が問題なのでしょうか?」と言う問題を特定するところからスタートしましょう。
今回、展開されるのは建設現場で見つかった爬虫類の卵を助けるストーリーです。子どもたちに活動シートを配って、エンジニアリングデザインの課題を提示します。それは爬虫類の卵を建設現場から保護センターまで、保温しながら持ち運びできる装置を考える課題です。子どもたちがさまざまなヒートパックを観察して、ヒートパックのデザインを議論していくのです。
この課題設定とストーリー作りがとても重要で、大人にとっては本領の見せ所です。この授業プランでは爬虫類としてヘビやカメが登場します。
実際には、建設現場で爬虫類の卵を見つけることができる地域は多くないでしょうし、子どもの年齢によっては分かりづらいと思いますが、子どもたちの年齢や地域に応じた課題設定とストーリー作りができれば、子どもにとって身近な”ジブンゴト化”された活動になっていくでしょう。
「自然のために」試行錯誤が現れる〈森の設計図〉
子どもたちは、爬虫類の卵を救うストーリーを読み進めて、保温に必要な温度を調べていきます。やがて、身近なものを使って、簡単な化学実験を行います。
この活動では100円ショップでも除湿剤として売られている塩化カルシウムと、重曹を使います。塩化カルシウムを水に溶かすと温かくなり、重曹を水に溶かすとわずかに冷たくなることを実際に確かめます。そして数パターンの組み合わせを試してみて、温度がどれぐらい変わるのか、試行錯誤しながら最善策を探っていくのです。この「試行錯誤」はSTEAM教育ではとても大切な要素です。
次に子どもたちには新たな課題が投げ掛けられます。温度の変化のパターンがわかったからといって終わりではないのです。それは「ヒートパックのデザインについて、卵を衝撃から保護するためには何が必要でしょうか」というものです。
保温期器の中で卵が動いて割れてしまったらどうするのかと言う現実的な課題に向き合うのです。しかし、緩衝材などは与えられません……。
この制約から子どもたちは、「どうすればヒートパックを膨らませることができるか?」を考える段階に入ります。子どもたちは、プロトタイプ(原型)のヒートバックとしてチャック付きポリ袋を用い、温度を保ちつつ、袋を膨らませるための化学反応を試し改良を加えていきます。
解説を活用することで学びが広がる
最後に、できるだけ長い間温度を保って、卵を適切な位置に置いて持ち運びができる「卵の保温器」の特性を議論します。
「膨らませたチャック付きポリ袋を、卵を保持するためにどのように組み込みますか?」「卵を膨らませたバッグでできるだけ長く保温するにはどのような方法がありますか?」などを考えながらデザインして、装置を作っていきます。
装置が無事にできると、「爬虫類が救出されました! おめでとうございます。装置は作動しました! 建設現場から爬虫類保護センターにヘビの卵を安全に運ぶために使用されました!」と言うエンディングストーリーが待っています。
おわりに「ほとんどの爬虫類は孵化すると餌を与えて世話をすることができます。赤ちゃん蛇は新しい場所で野生に話されます。そこで彼らは生き残り、繁栄するために努力しながら新しい家を作るのです」と動物の生態を知ることができます。まるでネイチャーゲームの「生きものカード」の裏面にある解説を見るような感じです。
CaCl2+2NaHCO3→CaCO>3+2NaCl+CO2↑+H2O
化学反応式で表してしまえば、たったこれだけです。動物を守るストーリーから「ものづくり」を行い、科学の原理も学んでしまうところがとてもユニークですね。
今回は科学でしたが、他には「環境にやさしいダムを作ろ」という活動があります。その活動の1つに魚梯(魚が河川を登れる、ゆるい傾斜や階段上の水路)の学びがあります。魚梯のデザインを試行錯誤するプロセスの中で、子供たちには魚の生態を知る必要性が生まれていきます。
自然のために試行錯誤しデザインして課題を解決していくーーその原動力となるのは「自然のために」と言う共感力であり感性でしょう。これはまさにネイチャーゲームの得意分野。今行っている自然体験活動をちょっと工夫するだけで学びが広がっていくことって、大人にとっても楽しいことなのです。
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郡司賀透 ぐんじよしゆき
静岡大学学術院教育学領域准教授
静岡大学STEAM教育研究所副所長
静岡市環境教育推進会議議長
ネイチャーゲームリーダー
茨城工業高等専門学校、長岡技術科学大学工学部卒業後、筑波大学大学院教育研究科修了。つくばエキスポセンター勤務。筑波大学大学院教育学研究科を経て、郡山女子大学短期大学部講師、准教授。保育者・子どもを対象にした自然活動を行う。2013年10月より現職。博士(教育学)(筑波大学)

※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.43 特集(取材・文:茂木奈穂子 編集:藤田航平・豊国光菜子、校條真(風讃社))をウェブ用に再構成しました。
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