Vol.1 生命の一体性
カリフォルニア奥地の山の渓谷をハイキングしていたときのことです。花、石、勢いよく流れる清流・・・何もかもが笑い、歓びいっぱいに歌っているのを、私ははっきりと感じていました。草の1本1本、小さなせせらぎ、苔むした岩の1つ1つ、すべてが普遍の歓びを表現し、その歓びを世界に向けて高らかに謳いあげているように見えました。
しばらく後、雪解け水をたたえ、周囲を家ほどの高さのある氷河岩に囲まれた小さな池の近くに私は座り、ひきつづき周囲に満ちた歓びを味わっていました。うれしいことに、そこに羽の生えた濃い灰色の友達が遊びにきてくれました。1羽のアメリカン・ディッパー(カワガラスの仲間)です。陽気でたくましいこの小さな鳥は、私からほんの数メートルの距離にまで近づき、歌を歌い始めたのです。美しい旋律の澄んだ歌声は、岩の壁に囲まれた私の小さな気持ちのよい「部屋」に見事に響き渡りました。カワガラスの生き生きとした歌声と響き渡る反響音は、その日、私が山で味わった歓びを何倍にも増幅させてくれたのです。
ジョン・ミューアは、「あらゆるものを覆い、その根底にあり、浸透している本質的な愛」が存在すると語っています。私は、生まれてこのかたずっと自然を生き生きと輝いたものにしてくれる「歓び」を感じ、それを周囲とわかちあおうと努めてきました。
人々に自然の中の歓びを感じてもらうお手伝いをするにはどうすればいいでしょうか?ヘンリー・デビッド・ソローはその秘密を教えてくれています。
――我を忘れることで、
私たちは自然に近づくことができる
私たちは誰でも幸せを求めていますが、幸せも歓びも「我を忘れる」ことの結果なのです。自分のことに没頭しない、心が囚われていない人ほど、生命に対する意識は高まり、生命との歓びに満ちた関係を実感できるようになります。
中国の詩人・李白は、思考が鎮まれば、心が鏡のようになることを美しく表現しています。このような状態になったとき、私たちは初めて周囲の世界と完全に通じ合うことができるのです。
鳥は空に消え
最後の雲も流れ去った
共に座る、山と私
やがて山だけが残るときまで
世界を変えることはそれほど重要ではない、私たちが自らの意識の中でその変化になることに比べれば...私は徐々にそのことに気づいてきました。マハトマ・ガンディーはこう言っています。
――見たいと思う世界の変化に
あなた自身がならなくてはならない
生命の調和、善良さを深く感じ、理解できる者ほど、他人に大きな影響を与えることができるのです。その最高のお手本の1人が、ジョン・ミューアです。
ジョン・ミューアほど自然を生き生きと語ることができた人はありません。生けるものすべてに大いなる愛を注いだミューアは、誰よりも深く自然界のことを理解できるようになっていきました。鳥も熊も花も、彼だけにはその秘密の生活ぶりを明かしました。野生の動物たち、木々、山の吹雪と遭遇したときのことを語るミューアの言葉を聴いた人々は、まるでその場に立ち会っているかのように感じたといいます。
ネイチャーゲームの指導者として、私たちがどれだけ効果を発揮できるかは、私たち自身の自然体験の深さによって決まります。すべてのネイチャーゲームの指導者が、自然への意識と愛を育むために、毎日、インスピレーションに満ちた自然アクティビティ、または、瞑想を行うことができれば、どれだけすばらしいでしょう。
次号では、指導者自身に向けた具体的なアクティビティを紹介します。
※本記事は情報誌「ネイチャーゲームの森 vol.69」(2010年3月15日発行)より転載しています。
団体名称、役職者名等について発行時の表記となっている場合があります。
Joseph Cornell
ジョセフ・コーネル
1950年米国カリフォルニア州生まれ。野外教育インストラクターを経て、1979年『Sharing Nature with Children』(邦題:『ネイチャーゲーム1』柏書房)を発表。現在、世界的なナチュラリストとして活躍。米国アナンダ村で瞑想やヨガ、菜食主義を取り入れた自然と調和する日常生活を送っている。シェアリングネイチャーワールドワイド会長。(公社)日本シェアリングネイチャー協会名誉会長。
ジョセフ・コーネル近況報告
ジョセフとアナンディ・コーネルは、北米カリフォルニア州、アナンダ・ワールド・ブラザーフッド・ビレッジに35年以上暮らしてきました。昨冬、アナンダ村の創設者スワミ・クリヤナンダが創設したスワミとしてのイニシエーションを受ける栄誉を受けました。