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Vol.5 自然の中での深い体験の重要性 1

シェアリングネイチャーを深めよう ジョセフ・コーネルからのメッセージ
Vol.5 自然の中での深い体験の重要性 1

 私は、深い自然体験をした瞬間に、この地球上の自分の居場所(位置づけ)がはっきり理解できたという人々をこれまでに私自身も含めて、たくさん見てきました。私は私自身が5歳の頃に体験したある出来事を今でも覚えています。この体験をきっかけに、私は大自然の中で自由に生きることの〝とりこ.となりました。

 ある寒い霧の朝のことでした。私は家の外でひとりで遊んでいました。すると突然、頭のほうから「コウコウ」とコーラスに似た声が聞こえてきたのです。声の主を一目見ようと、霧の中にじっと目を凝らすと、鳴き声のテンポはますます速くなってきます。バサバサという翼のはばたきが、私の真上を通過しようとしていました。その時です。霧の切れ間からパールホワイトに輝くハクガンの大群が現われたのです。まるで霧から生まれたように思えました。ガンはほんの5~6秒の間、優雅でしなやかな姿を見せて、また霧の中へと消えてしまいました。ハクガンとの出会いは私を心からワクワクさせ、それ以来、私は自然の中にどっぷりと浸っていたいと願うようになったのです。

 野外にいても、個人的な心配ごとにかかりきりで、なかなか周囲の事物に気づかない人は少なくありません。私はかつてオーストラリアのキャンベラで25人の教師のグループを対象に実験をしてみたことがあります。1本の美しい木を出来る限り長く見つめるように、そして、木から意識が逸れて他のことを考え始めたら手を上げるようにと彼らに指示しました。すると、わずか6秒後には全員が手を上げていました。彼ら自身、自分の心の落ち着きのなさに驚いていました。

 これほど心も体もせわしない子どもたち、大人たちに自然を深く体験してもらうために、私たちには何ができるでしょうか? 私が発見した秘訣は、いくつかの感覚を使ったアクティビティに彼らの集中力を没頭させることです・・・それも、彼らが夢中になってしまうような方法で。

 たとえば、2人1組で行う〈カメラゲーム〉では、「写真家」が「カメラ」の肩を軽く叩き、その間カメラ役は目の前の風景にじっと目を凝らします。カメラ役が目を開けている時間はわずか数秒なので、空想にふけるすきはありません。そのため、この「写真」のインパクトは非常に強く、この活動を体験した人からは5年後、あるいは8年後にも、この「写真」の鮮明な記憶が残っているという話を聞いたことがあります。このアクティビティはあらゆる年代の人々に「真に見る」とはどういうことかを経験してもらうのに役に立ちます。

 シェアリングネイチャーの直接体験型のアクティビティはどれもユニークな方法でこの目的を達成します。シェアリングネイチャーの体験者は、自然にどっぷり浸るあまり木や雲など、彼らが体験しているものそのものになりきってしまうことがよくあります。

 聖アンセルモの言葉に『体験せずに知ることはできない』というものがあります。科学は満開の桜の木を〝説明する.ことしかできません。全体としての桜の木を〝体験する.のに役には立たないのです。地球への愛と配慮を育むには、深く充実した自然体験が必要です。体験なくしては、私たちと自然との関係は遠く抽象的で心の深いところに触れることはありません。

 充実した体験は、私たちを自然に直接向き合わせてくれます。観察する側(人)と観察される側(自然)が一つになるのです。そして、この時に初めて、観察者の中に真の共感と愛が生まれるのです。ジョン・ミューアは『人間の魂は全世界をも内包する』と語っています。体験型学習のより深い目的は、人生の経験を広げ、自分以外の現実を自分のものとして受け入れられるようにすることにあります。ミューアによれば、人が自然にどっぷり浸っているとき、『身体は消え、解放された魂は外に出ていく』のです。私たちは、肉体的な身体と利己的な自己を超越し、自らのアイデンティティを広げることができたときに初めて、遥か彼方の水平線や美しい声でさえずる鮮やかな鳥たちなど、無数の喜びと交わることができるのです。

Joseph Cornell ジョセフ・コーネル
1950年米国カリフォルニア州生まれ。野外教育インストラクターを経て、1979年『Sharing Nature with Children』(邦題:『ネイチャーゲーム1』柏書房)を発表。現在、世界的なナチュラリストとして活躍。米国アナンダ村で瞑想やヨガ、菜食主義を取り入れた自然と調和する日常生活を送っている。シェアリングネイチャーワールドワイド会長。(公社)日本シェアリングネイチャー協会名誉会長。

コーネルさんによるジョセフ・コーネルってどんな人?
自然と交わること.そして、他の人々が自然と交わるための手助けをすること.それこそがジョセフ・コーネルが生涯をかけ熱心に取り組んでいるテーマです。サンフランシスコ州立大学在学中には、それに専念するための特別な専攻科目を作ってしまったほど。同大学の数百人の生物学部の学生たちの中で「ネイチャー・アウェアネス(自然認識)」専攻は私ただ一人でした。

翻訳:藤牧智子

※本記事は情報誌「ネイチャーゲームの森 vol.73」(2011年3月15日発行)より転載しています。
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