Vol.8 いま、目の前にある自然に心を開く
このコラムの読者の皆さんは、自然の中で素晴らしい体験をしたことがある方々だと思います。私はある谷をハイキングしていました。そこはあまり多くの人が訪れない場所なのですが、私は、小川の近くを歩き、そしてそこにある花たちを見ていました。そして、滝の水が岩の上に落ちる音を美しい音楽のように聞いていました。私はその時に、花や水、岩、その場所にあるすべてのエレメントがそれぞれ調和をし〝笑っている.ように感じたものです。このような自然そのものから得るインスピレーションこそが、自然や人(私たち)には大切だと思います。
4年前ですが、私はノースカロライナ州でワークショップを実施しました。そのワークショップにはジューク大学の女子学生が参加していました。ジューク大学というのはアメリカでも有数の大学のひとつです。その日は最終学期の週だったので彼女はテスト前だったそうです。最初、彼女はとても大きなプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。私は、そのワークショップで、最近新しく考案した〈私は見える〉(原題:I can see)を行いました。この活動では、参加者を自分の前に座らせてリーダーはその後ろに立ちます。そして、リーダーは参加者に静かにこう話しかけます「・・・私は見える」。参加者はその時に見える何かを声に出して言います。例えば、「風で揺れる木の葉・・・」といった具合に。続いてリーダーは、「私は聞こえる」「私は感じる」というように、参加者に話しかけます。参加者はもしかしたら、森の奥でさえずる鳥があなたを呼ぶ声を聞くかもしれませんし、そばにある木の葉があなたに近づこうとすることを感じるかもしれません。
先ほどのジューク大学の学生は、このアクティビティを通して、"いま、この瞬間に集中すること" "いま、この瞬間に関心を向けること"に気がつきました。その後、彼女はとてもリラックスし、恐れを克服することができました。なぜなら、彼女はその"瞬間に生きていること"に集中しており、未来のテストのことはもう心配しなくなったからです。
人々は多くの悩み事にとらわれていますし、深刻な環境問題にも直面しています。しかし、そのことにばかり関心を向けて、"いま目の前にある自然"に心を開かないことは、とても残念なことだと思います。
シェアリングネイチャーが皆さんに提供したいのは、自然そのものと深い関わりを持つという体験です。自然を深く体験した人というのは、自然によって変わることができるのです。シェアリングネイチャーが目指していることは、人々が自然に対する愛と自然への誠実さを持つことを見つけたい。人々がもっと自然や自分の周りの環境に繊細になればなるほど人はもっと健康的に変わっていけるのではないかと思うのです。
Joseph Cornell ジョセフ・コーネル
1950年米国カリフォルニア州生まれ。野外教育インストラクターを経て、1979年『Sharing Nature with Children』を発表。現在、世界的なナチュラリストとして活躍。米国アナンダ村で瞑想やヨガ、菜食主義を取り入れた自然と調和する日常生活を送っている。シェアリングネイチャーワールドワイド会長。(公社)日本シェアリングネイチャー協会名誉会長。
この記事は、2011年6月の来日講演をもとにしました。
※本記事は情報誌「ネイチャーゲームの森 vol.78」(2012年6月15日発行)より転載しています。
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